嘘つきの恋

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「アレは……兄さまだったよ」 母と同じΩである自分はきっと彼に同じように犯されると本能的にそう察した。それ以降、オレは、二度とあの人には近寄らなかったし、その後すぐに攫われるようにしてここへ来たオレは正直安堵していたのだ。これであの人に二度と会わずにすむと思ったから。 サキは黙ってオレを抱き締め「すまなかった」とそう言った。 「そんな事情があっただなんて俺は全く知らなかった」 「そんなの当然だよ、誰にも話した事なかったもん。もう遠い過去の記憶、だけど、やっぱり忘れられない」 忘れたつもりでいたのだ、二度と会うこともない人だと、それでもその恐怖はオレの中に燻ぶり続けていたのだと今はっきり自覚した。 「母さまは、こういう事は大事な人としかしてはいけないって、何度も何度もオレに言い聞かせた。だからオレはこの村のこの習慣が衝撃的でもあったんだ。村に馴染まなきゃとも思ったけど、母さまの言いつけも忘れられなくて、だから、たくさん嘘を重ねた……」 サキのオレを抱く腕が強くなった。あぁ、なんだろう、サキの腕の中は安心できる。 「サキは本当にオレだけを愛してくれる? オレに何かあったら全力で守ってくれる?」 「そんなの当然だろ!」 あぁ、良かった、オレは間違えた訳ではなかったみたいだ。 「だったら今度は優しく抱いて、乱暴なのはもう嫌だ」 「壊れ物でも扱うようにか?」 「そうだよ、お姫さまみたいに扱って」 「だったら俺は王子さまか? そういうのは柄じゃないんだがな……」 ふいっと掬われるように抱き上げられて、そのままベッドに運ばれる。なんだろ、これむず痒い、この間よりも緊張する。 優しく丁寧にベッドの上におろされて、まじまじと瞳を覗き込まれた。 「ハルの瞳は本当に赤いな。グノーさんもそうだったけど、なんでこんな色になるんだろうな?」 瞬間思考が停止する。 「……誰、それ」 「え? ルイの母親だけど?」 「ベッドの上で他の人の事考えるとか、最・低!」
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