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悠介は透の白い背に覆いかぶさると、ぴったりと胸と背中を合わせる。透の汗が、悠介の白いTシャツに沁みてくる。ふたつの心臓の音が重なる。シーツを握りしめる両手を上から包み込んで、真っ赤な耳元に顔を寄せた。透を己の体の下に閉じ込めたような姿勢だ。
「透さん。重い?」
「だ、いじょうぶ、んっ、あっ」
透を全て自分で満たす。そんなつもりで、どこもかしこも肌をしっかり寄せ合って、己の欲望を突き上げた。
こんなにも全身で透を感じているのに、まだ足りないと飢えている自分を、悠介はどこかで感じていた。こんなに貪欲な自分が居たとは知らなかった。勉強にも。野球にも。友人にも。女の子にも。興味がないというほどではないが、熱くなることができなかった。なのに今、透というひとりの人にこんなにも心を狂わされている。そのことが怖くもあり、嬉しくもある。
「透さん、透さん……っ」
「ふ、あ、悠介くん、すき、好きい……っ」
熱に浮かされた透がぽろりとこぼしたその言葉を、悠介は聞き逃しはしなかった。それは確かに、初めて透から向けられた明確な意思だった。恐らく透自身は己がそれを口にしたことに気づいていないだろう。
胸がいっぱいになる。体が軽くなる。何もかも奪いたいという気持ちと、何もかも守りたいという気持ちが同時に存在している。
人を好きになるとはこういうことなのか。悠介は、自分の中にはじめて芽生えたその感情を、じっくりと噛み締めた。
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