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理想と現実の狭間で
◇ ◇ ◇
「それでは以上の内容で制作を進めさせていただきます」
打ち合わせを切り上げた雪乃はテーブルに出ていた資料をまとめて立ち上がった。隣で打ち合わせの流れを確認していた鷹瑛もそろって席を立ち、二人の向かいにいる先方の担当者は満足そうに頷いている。
雪乃と鷹瑛は駅のリニューアルに伴う時計塔の制作について鉄道会社に詳細を詰めに来ていた。
「よろしくお願いします。デザイン案ができるのを楽しみにしていますよ」
エレベーターホールまで二人を送った担当者は丁寧に腰を折る。
「本日はありがとうございました」
エレベーターに乗り込んだ雪乃と鷹瑛もお辞儀を返し、取引先をあとにした。
ビルを出て道路脇の歩道をならんで歩きながら、雪乃は打ち合わせでのやり取りについて鷹瑛からコメントをもらう。営業部に配属されて日の浅い雪乃は、自分が中心になって案件を進めることにまだ慣れていないため、こうして指導を受けている。鷹瑛の指摘は無闇に叱るようなものではないものの、本質を的確に突いてくるので緊張のひとときである。だが評価は総じて良いものだった。
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