なんですって

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葛城さんは相変わらずにこやかで、淡々と世間話のような声のトーンのままだ。だからその縁談に、自分が関わっているとは思いもしなかった。 「縁談ですか……あ、兄の?」 花月庵に関わる縁談なら、当然跡継ぎの兄のものだろう。葛城さんのご親戚との縁組だろうか? 首を傾げる私にくすりと笑う。その時初めて、穏やかなだけだった葛城さんの微笑みに妖艶さが漂った。 「いいえ。私と貴女のです」 うっかり、彼の微笑みに見惚れてしまい、物凄く大事なそのセリフが右から左へ流れかける。 「藍! どこだ!」と後ろの方で聞こえた父の声に、はっと気が付いた。 目の前の彼がまた、表情を変える。悪戯に微笑んで、人差し指を唇の前で立てる。『静かに』という意味だろう。 「こちらへ」と、私の腕に添えられていた手が、肘を伝って手首へと降り、私の手を引っ張った。
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