1.被験者

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 たとえば、かつて意識は脳の特定部位により作り出されるものだとされていた。  しかし、脳の損傷で昏睡状態となった後に死んで幽霊となった人達の証言から、脳の意識を司る部位が機能していなかった時期も彼らが実際には意識を維持していたことが分かったのだ。  これがきっかけとなって人の意識に関する新理論が打ち立てられ、現代では、意識を生み出しているのは人の体の内に入っている霊魂であり、脳は霊魂と情報をやりとりする役割を担っているのだと考えられている。  そして、人の死に伴ってその霊魂が体外に出てきたものこそが幽霊なのだ。  幽霊が出現する条件についても既に明らかになっている。  観測されるのは死に際に強い恨みや未練を抱いた人間の死霊だけであり、いわゆる生霊というものは実在しない。また、原因となった恨みや未練が解消された場合には、幽霊は消滅する。そして出現するのは原則として死んだ場所である。  このように様々な新発見があった一方で、歴史の浅い学問だけに分かっていないこともまだまだ多い。  たとえば、恨みや未練の解消により消滅した幽霊や、あるいは最初から恨みも未練も無く死んでいった人間の霊魂はどうなるのか。巷で考えられているように天国や地獄のようなところへ行くのか、それともただ無へと帰すのか。そういったことはまるで分かっていない。  また、死後に体から出てきた幽霊は観測できても、まだ生きている人間の体内におさまっている霊魂の観測は、博士の開発した装置をもってしても不可能だ。どうやら生体が発する様々なシグナルが強すぎて邪魔になり、霊魂が発する微弱なシグナルを拾うことができないらしい。
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