1人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
――君との出会いは、雨の日だった。
友達と遊んだ帰り道、急に身を包んだ冷たさ。
陽が見えなくなるほどに雨は強くて、急いで近くの廃小屋へと退避した。
田舎ならではという離れにある場所は、家までだいぶ遠い。
(さむっ……)
少し夏に早い季節。
どうしようか、迷っている俺に。
「傘、貸してあげるよ!」
突然現れた君は、その一言をかけてきた。
「君は、確か……」
隣のクラスで見かけたような気がする、活発な子。
Tシャツにハーフパンツ、目深に被った野球帽という姿は、同じ年頃ということもあって親しみを感じさせる。
どこか自身に満ちた笑みを浮かべた君は、ためらうことなく、手元の傘を差しだしてきた。
「えっと、貸すって」
「明日、返してくれればいいからさ」
同じ学校なのを、向こうも知っているんだろう。
けれど、雨音はさっきよりも強くなっている。
「でも、この雨じゃ」
「いいから、困ってるんでしょ」
戸惑う俺の手に、君はぱしっと投げつけるように、傘を押しつける。
なにかを言うより早く、君は、雨の中に駆けだしてしまった。
「君が濡れてしまうよ!」
「大丈夫! じゃあ、またね!」
強い雨音に遮られたけれど、そのはっきりした声は、俺の耳を強く打った。
――それに、雨の中を駆け抜けていく、その後ろ姿が。
――幼い俺の眼には、妙に輝いて見えたんだ。
最初のコメントを投稿しよう!