雨の檻の向こうに

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 ――君との出会いは、雨の日だった。  友達と遊んだ帰り道、急に身を包んだ冷たさ。  陽が見えなくなるほどに雨は強くて、急いで近くの廃小屋へと退避した。  田舎ならではという離れにある場所は、家までだいぶ遠い。 (さむっ……)  少し夏に早い季節。  どうしようか、迷っている俺に。 「傘、貸してあげるよ!」  突然現れた君は、その一言をかけてきた。 「君は、確か……」  隣のクラスで見かけたような気がする、活発な子。  Tシャツにハーフパンツ、目深に被った野球帽という姿は、同じ年頃ということもあって親しみを感じさせる。  どこか自身に満ちた笑みを浮かべた君は、ためらうことなく、手元の傘を差しだしてきた。 「えっと、貸すって」 「明日、返してくれればいいからさ」  同じ学校なのを、向こうも知っているんだろう。  けれど、雨音はさっきよりも強くなっている。 「でも、この雨じゃ」 「いいから、困ってるんでしょ」  戸惑う俺の手に、君はぱしっと投げつけるように、傘を押しつける。  なにかを言うより早く、君は、雨の中に駆けだしてしまった。 「君が濡れてしまうよ!」 「大丈夫! じゃあ、またね!」  強い雨音に遮られたけれど、そのはっきりした声は、俺の耳を強く打った。  ――それに、雨の中を駆け抜けていく、その後ろ姿が。  ――幼い俺の眼には、妙に輝いて見えたんだ。
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