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「それにしてもすごいよな、あいつも」
なんだかその場に妙な空気が流れつつあったので、話題転換の意を込めて俺がそんなことを口にすると、かなえが「え?」とこちらに視線を向ける。
「お前もそうだけどさ。自分の好きなことを全力で頑張れる奴ってすごいよ。エネルギーの使い方を間違ってない」
取り繕うとか、空気を読むとか、そういうことはあまり考えないで言ったことだけに、それが俺たち二人にとってどんな言葉なのか、どんなことを意味するのか。それをを認識するのに時間がかかった。
だから、気づいたころにはもう遅かった。
かなえが最近はほとんど見せていなかった「あの顔」になってしまっていたのだ。
「兄さんはさ…やっぱりまだ…」
かなえが伏し目がちに何かをつぶやく。よく聞き取れなかった俺は「え?」と聞き直す。
だけど、かなえは首を横に2度3度振ると
「…ううん。何でもない」
そう言ったきり、何も話さなくなってしまった。
そのどこか重々しい空気に耐え切れなくなって、俺が「やっちまったなぁ!」と某お笑い芸人のギャグを心の中で叫んでしまったのは、なんとも悲しい現実逃避だった。
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