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「結局さ」と、最初の話題に強引に戻す。
「荒らされた本棚からリアルホラー本が紛失したんなら、それが原因じゃない?リアルホラー本の存在は全校生徒が知ってるんだから」
「無くなったんは三冊やぞ。犯人がわざと、リアルホラー本に意識いくように持っていったかもしれん」
アーサー・コナン・ドイル著、『緋色の研究』
アガサ・クリスティ著、『そして誰もいなくなった』
紛失した蔵書は、三冊とも有名なミステリー作品だ。三冊のうち目的が一冊だと推測すれば、やはり『四つの署名』だろう。
「偶然や偶然。俺は他の二冊が怪しいと思う」
「図書室に恨みがある生徒が、生徒の図書室の利用をなくそうと、リアルホラー本を利用して呪いを作ったのかも」
「お前は今日のあれが、元を辿れば俺が原因やと言いたいんか?」
「断定はしないけど」
ありゃー、と波多野くんは自分の額を叩いた。芝居がかかった大仰な仕草のせいで、非は感じない。
「相棒なのに嫌われてるね」
「成り行きで否定しなかっただけで、いつでも辞めれるよ、僕は」
「嫌われたもんやなあ」
深緑のブレザーのポケットが、人為的な揺れている。波多野くんのスマートフォンがそこに仕舞われていることを僕は知っている。
脅しているのだ。弧を描く口許が憎たらしい。
「いつでも辞めれるけど、中途半端に投げ出すようないい加減な性格じゃないから。乗りかかった船からは降りないよ」
「それでこそハルや」
露骨に止んだポケットの揺れに怒りすら覚える。
「なんか、言わした感があったけど」
「気のせい。それより無くなった本。前に誰が借りたか教えてくれるか」
「多分、なんの参考にもならないよ。有名な、世界的な作品だから、高校の図書室で借りて読むって人少なくて。『四つの署名』だけ、白石くんが調査のために借りてたけど」
「情報は多い方が推理のしがいがあるやろ」
波多野くんは推理をしない探偵だと豪語したはずだ。図書室といい美術室といい、彼の言動にはつかみどころがなく胡散臭い。
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