0人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
ザァー
雨の音で目が覚めた。
ゆかりは「雨かぁ」と呟いた。
雨音ゆかり(あまねゆかり)。
畳に敷かれた布団から起き上がり障子を開ける。
廊下を挟んだ窓は開けられており、ひんやりとした空気が肌に触れる。
庭に植えられている草木に雨が当たり軽快な音が聞こえる。
梅雨の季節。
雨の匂い。
私は嫌いじゃない。むしろ好きだ。
雨自体も嫌いじゃない。
だけど、今は憂鬱だった。
「はぁ」思わずため息が出る。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
着物を着た若い男性が、穏やかな笑みを浮かべながら、こちらにやって来た。
この屋敷の主人、雨宮倫太郎(あまみやりんたろう)さんだ。
30歳過ぎだろうか。
「はい。お陰さまで」
雨宮さんは毎回そう尋ねてくる。
「それはよかった。朝食の用意が出来ています。支度が出来たらいらしてください。」
そう、ここは私の家ではない。
親戚の家でも前からの知り合いの家でもない。
つい数日前に知り合ったばかりの人の家だ。
そして、現代ではなく、今から40年前の世界。
40年前?と驚かれる方もいるだろう。
なぜ私がこの世界にいるのかと言うと…
最初のコメントを投稿しよう!