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都内の私と娘が住むこの場所は、実家から離れて夫と暮らすのに、私の実家から指示があり住む事になった場所であり、ここの世話人役の世帯の人間は私の過去を知っている。
夫も私の過去を知り、この契約結婚に賛成してくれた変り者だ。
夫は大手貿易系商社に水先案内人として勤め、国内の五大港を含む世界中の水先区で仕事をしているのでめったに家には帰ってこない。
夫とは契約関係で夫の浮気は当然であり私達には体の関係がない。
娘は、もちろん養子で娘が五歳の時二人の元へ引き取った。
その娘さえも実家からある程度自由になるための条件で、葛藤が無かったと言えば嘘になるし、今では本当に娘として愛していて、溺愛気味な所があると自覚している。
私は〇×インダストリーで主任開発研究員をしており、仕事で浄水器と空調のフィルターの開発に携わっていた。
上級研究員でありセキュリティのしっかりした環境を条件に半在宅で仕事をした時期もあった。
◇◇◇
自宅でスカイプをする。相手は夫だ。
『こんばんは』
瑞穂はアラビア語で話し出す。
『ーーずいぶん滑らかになってきた』
『ありがとう、貴方の船は今はどこ?』
『インド洋だよ』
『ーー瑞穂が仕事で海外なんてな』
『友唯が心配だったけどあの子も二十歳になるし、受ける事にしたわ』
『あのね、貴方!友唯ったら急に恋人に会って欲しいって』
『なんだい、僕が日本にいる時じゃ駄目かい』
『パパは家どころか日本にも滅多にいないんだからママに会って欲しいの!ですって』
『嬉しそうじゃないか瑞穂』
『…えぇ、あの子にも苦労かけました。普通に幸せになってもらいたい…』
◇◇◇
初夏に入ろうかと言う庭のバラは実家のバラから分けたもので、自宅が茶系の外壁にそって這う緑と赤いバラが美しかった。
園芸は趣味であり特技だ。
もうすぐ娘が恋人を連れてやって来る。
家のチャイムが鳴って玄関に回った。
玄関には娘の友唯と娘の恋人にはいささか歳がいっている男が立っていた。
リビングに通してソファにかけさせる。私は手土産のプチフールにアイスのアールグレイをいれ、テーブルにならべた。
話を聞きたくなかったわけじゃないが手土産のもうひとつマーガレットをメインにした花束をいけるのに席を離れた。
トイレに立ったのか男が、洗面所にやって来た。
「…ごめんなさい、花束をありがとう
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