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「そうですか……あ、では、私からも布で作ったプレゼントを」
ピンキング鋏を取り出し、端切れの中から適度な厚みがあるものを選び出しました。
それを3センチ×10センチほどに切り出し、上方の真ん中に穴を開け、布地を購入した時に巻かれていた麻のリボンを通します。
「栞です、よかったらもらってください」
差し出すと、佳香様は恥ずかしそうにしながらも受け取ってくれました。
「ありがと……」
「いいえ。こちらこそ、素敵なプレゼントをありがとうございます、とても嬉しいです」
佳香様は栞を両手で握り締めて、私を見上げていましたが。
やがて右手で手招きをしました。
「はい?」
内緒話かと身を屈めて、顔を近づけますと。
右の頬にキスを、されました。
「──はい?」
「挨拶だから!」
「はい?」
「知らないの!? 外国では挨拶でするのよ! 挨拶だからね!!!」
「はい……」
小さな女の子の行動に思考停止している間に、佳香様は店を走って出て行きました。
いつものようにショーウィンドウの向こう側を走っていく胸に、しっかりと栞を抱き締めてくれています。
挨拶……挨拶でしょうか?
いえ、彼女の様子からすれば──。
いいえ、深く考えてはいけません。
まだ、愛だの恋だのの意味もよく判っていないお年頃の筈です。本気になるつもりは毛頭ありませんが、毛嫌いする必要もないようにも思います。
でも、ほんのちょっぴり、恋人ごっこにお付き合いするのは、よろしいのでしょうか?
終(2017.7.9)
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