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こびりつく
五日ほど前、ファミレスで同級生のAに会った。
自分の方から会いたいと言ってきたのに、Aの奴、スマホのイヤホンを耳に入れっぱなしで俺の前にぼーっと座ってやがる。少々むかついたので、注意してやった。
「お前、イヤホン外せよ」
「えっ?何?」
無駄にでかい声でAが応ずる。相手の声が聞こえにくいと、人は声がでかくなるものだ。
「だからあ、イヤホン外せって!」
こっちの声もでかくなる。
「ああ、これな。丁度いい、ちょっと聴いてみてくれ」
そう言うと、Aはイヤホンの片方を外して俺の鼻先に差し出した。
「何だよ?」
「いいから、それちょっと、耳に入れてみてくれ」
Aの耳垢のついたイヤホンを耳に入れるのも不愉快なので、厭味ったらしくナプキンで拭いてから右の耳に入れた。
なんの変哲もない、アイドルグループのつまらん曲が流れている。
「これがどうした?」
「何も聞こえないか?」
「曲はまともに聞こえてるよ」
「いや、曲そのものじゃなくてさ。曲に被って何か雑音みたいなの、聞こえねえか?」
そんな声も雑音も聞こえない。
「曲以外には何も聞こえねえよ」
「……そうか。ちょっと、入れ替えて反対側も聞いてみてくれ」
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