第五章 同衾

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やがて浴室からシャワーの音が聞こえて来たのを確認した後、先刻何を書いていたのだろうと気になっていたものを見た。 其処に置かれていたのはどうやら専門学校で使っている教科書らしきものとレポート用紙だった。いわゆる宿題みたいなものをやっていたのかと分かると少しだけ心がざわついた。 (宿題……そういうのやらなきゃいけない歳なんだよね) 改めて一回りの年齢差の大きさにため息をついた。 【調理理論と食文化概念】と書かれた教科書の端は沢山めくれていて如何にも使い込んでいる感が窺えた。それを見て調理関係の専門学校だからといって料理ばかりを作っている訳ではないのだとなんとなく知った。 (真面目に勉強しているんだな) 私には到底分からない勉強をしているというだけでも尊敬に値する。と同時に、学校に行ってコンビニでバイトして、その上私の面倒まで見るなんて大変なのではないかと思った。 今は夏休み中で多少融通は利くかも知れないけれどそれが終わったら──? 仮に半年後、私が智也くんとの結婚を認めてそうなった時、彼は仕事と家庭の両立が出来るのだろうか。 普通なら女性が考えるだろう問題を彼はどう思っているのだろうか。 (もしかして先のことなんか考えていないのかな) 彼は私が結婚する気がないと知っているから、それを見越してこの半年間が終ればまた普通の生活に戻れるとか思っているのだろうか。 たかが半年間だけの、結婚の真似事のごっこ遊び程度のこととしか捉えていないのかな、なんて考えが私の中で渦巻いてしまった。
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