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息を切らせながら、アイナさんを睨みつける。
訓練とはいえ、いきなりこんな事をしてきた彼女に腹が立ってしまった。
半分瀕死状態になりながらも立ち上がれたのは、アイナさんへの反骨心が沸き上がったのもあるだろう。
たぶん、外野から今の僕の状態を見たら異形のモンスターだと見えてもおかしくない。
手はだらりと無惨に垂れ下がり、足は震えて立つのもやっとの状態だ。
さらにその目は血走り、睨むような目で目の前の美女に眼光をくれ、歯ぎしりしながらふぅふぅと口呼吸するアンデッド。
何も知らない一般人が僕を見たら、そのおぞましさに嫌悪の表情を浮かべるか、怯えるかのどちらかの反応を示すだろうが・・・
「・・・よく立ち上がりました」
そう言って僕を見つめるアイナさんは、とても穏やかな笑みを浮かべていた・・・・
僕が立ち上がったことを彼女は心底喜んでいるのだと僕は悟る。
そして、アイナさんに抱いた負の感情を深く恥じた・・・・
僕はなんて馬鹿なんだ・・・・
彼女が訓練と称して僕を痛めつけて喜ぶサディストなんじゃないかと、一瞬でも疑ってしまった自分が嫌になった。
そして、僕はアイナさんの要望に無事に答えることが出来た嬉しさと、安堵感でふっと身体から力が抜けてしまう・・・・
「・・・あっ」
気づいたときにはもう、僕の身体は前のめりになって倒れていた。
足の踏ん張りが効かず、地面に倒れ込む衝撃を和らげようと左手で受身の態勢を取ろうとするのだが・・・
ボフッ!
「・・・おっと」
あれ・・・・?
しかし、硬い地面に激突することはなかった。
代わりに僕はクッションのようなものに顔を埋めることになる。
どうやらアイナさんに抱きとめられてしまったらしい・・・
え・・・ええ・・!!!?
「エノクさん。このまま動かないでください・・・一旦治療します」
「回復術師!!」
「彼の手当を!!!」
そう言って、アイナさんは訓練場に控えていた回復術師を呼び出した。
遠方から誰かがこちらに向かってくる足音が聞こえてくるが、アイナさんにガッチリと抱かれている僕は満足に首を動かすことも出来なかった。
回復術師の治療が終わるまで、彼女に身を預けたまま僕はじっとさせられることになってしまう・・・
アイナさんのクッションは張りがありつつも柔らくて、とてもいい匂いがした・・・・・
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