プロローグ ~待ち合わせをする少女~

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 季節は春。場所は沼津市(ぬまづし)千本浜海岸(せんぼんはまかいがん)。かの詩人、若山牧水も愛した風光明媚な観光名所である。時刻は午後八時過ぎ。空からは蒼い月光のスポットライトが、海岸に降り注いでいる。BGMは砂浜に打ち寄せる潮騒。  そして──防波堤に立ち、愛しい人の到着を今や遅しと待ちわびるヒロインがひとり。  今のあたしって、めっちゃロマンティック真っ只中の状況にいるよね! まさに、あたしのためだけに用意された特別な空間と瞬間ね!  大谷佳奈(おおたにかな)はひとり悦にいった表情を浮かべて、まるで恋愛映画のワンシーンのような現在の状況を楽しんでいた。約束の時間はだいぶ過ぎているが、そんなことで佳奈の燃え上がるような気持ちが冷めることはなかった。これも惚れた者の弱みであろうか。  早く来ないかな、あたしの愛しいあの人。あたしはさっきからずっとここにいますよ。ここであなたが来るのを待っていますよ。  佳奈は頭上に輝く月を見ながら、心の中でつぶやいた。     
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