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⑦
ヒカルたちは道中に在ったコンビニに立ち寄り、設置されているベンチに腰を落としていた。
「‥‥で、魔女さんと言う人がアヤカを助けてくれた。と‥‥これを送信っと!」
ナツキは慣れた手つきで携帯電話を操作してメール文章を打ち込み、魔女やこれまでの詳細をアヤカに送った。
「しかし、菊池の母ちゃん、ちょっとおっかなかったよな」
自分たちに素っ気ない対応をしたアヤカの母の感想を述べると、ナツキが話しに加わる。
「アヤカのお母さん、厳しい人だからね。アヤカの家に遊びに行くといつも緊張しちゃうのよね」
「一応、お見舞いなんだから、もう少しゆっくりさせてくれても良いのにな」
「魔女さんの薬で治ったとはいえ、病み上がりだったからしょうがないわよ」
「そういえば、その魔女さんは?」
「そうよね。夢で現れて、私たちを助けてくれたのに‥‥。一緒に戻れなかったのかな? どうなの、ヒカル?」
ナツキはベンチの端に座っているヒカルに声をかける。
「え? どうっていうのは‥‥?」
「魔女さん、なんで姿を現さないのかなって。それに何か話していたでしょう」
「ああ、確か。誰かが創った世界に入るのは難しいとかなんとか言っていたから、出るのも難しいのかな?」
「なるほど。でもまあ、魔女さんだったら大丈夫よね」
「多分ね」
「そうだ、ヒカル。夏休みの“自由研究”は何をするか決めた?」
「え、突然なに?」
「本当は魔女さんをアヤカに紹介した時に、ついでで訊くつもりだったけどね。ほら、せっかく魔女さんという本物の魔女が居るのだから、魔女さんの力を貸して貰えば、すごいことが出来るかなって」
「まあ、魔女さんと出会ってから、すごいことばかりが起きているけど‥‥。魔女さんに自由研究を手伝って貰うってこと?」
「そう。魔女さんが居れば、“伊河七不思議”を解明できるって思ってね」
「“伊河七不思議”?」
「私たちが住んでいる伊河市には、こういった七不思議伝説があるの」
ナツキは話しながらスマートフォンを取り出して操作をし、ブックマークしていたWebサイトを表示させてヒカルに見せる。
そのWebサイトには伊河市にまつわる七つの不思議な逸話が掲載されていた。
「えーと‥‥伊河湾に沈んだ島に、永久の枯れ木、地下迷宮‥‥へー、こんなのが伊河市に。この永久の枯れ木って、あのお化け枯木のことかな?」
「かも知れないし、そうじゃないかも知れない。このサイトには大雑把な内容しか書かれていないし、真偽不明なものばかり。だからこそ、これを解明したら面白いと思ってね」
ツヨシもディスプレイを覗き込み、話しに加わる。
「確かに面白そうだな。良いね、やろうぜ。自由研究は、この伊河七不思議の調査解明をしようぜ!」
「なに勝手なことを言っているのよ」
「いいじゃないかよ。国府田先生だってグループでやっても良いって言っていただろう。俺も参加させろよ」
まだ夏休みの宿題には手つかずのヒカルにとっては、ナツキの提案は渡りに船であった。
前の夏休みでは自由研究どころか、ほぼまったく宿題をやっていなかった苦い思い出があるヒカルは、今回の夏休みこそは宿題を終えたい気持ちはあった。
しかし――
「魔女さんが、手伝ってくれるかどうかだね」
「そうなんだよね。だから一緒に説得して欲しいの」
「うん、分かった。魔女さんが戻ったら訊いてお‥‥」
「へー、七不思議の解明ね。良いわよ、手伝ってあげても」
突然、背後から話しかけられて、ヒカルたちは後ろを振り返ると――
「「「ま、魔女さん!?」」」
魔女が待ち合わせの時間に遅れたのを誤魔化すような微笑みを向けていた。
「い、いつの間に‥‥」
「ふふ、ついさっきよ。ヒカル」
「なんだかんだで、あそこから無事に戻れたみたいだね」
「まぁね。ちょっと手こずったけど……ああいった世界は入るのも難しいし、出るのも難しいのよね。まぁ、私じゃなければ次元の狭間に迷いこんでいたでしょうけどね」
かなり危ない目であるが、軽い口調で話されると危機感も薄まってしまうものである。
三人は思い思いに魔女の無事を安堵しては、先程の出来事―小悪魔(ティルン)―について質問したりした。
「まあ、そのことについては、当事者のアヤカちゃんが居る時にでも話してあげましょう。ところで、さっきの七不思議の件。ヒカルは、どうするの?」
「どうするって?」
「まだヒカルの口から七不思議の調べたいとか言っていなかったから、念の為の確認よ」
「ぼくは‥‥」
ふとヒカルは魔女と出会ってから、これまでの出来事が過ぎった。
ヒナシの森で突然現れた魔女と出会い、排水口の奥で化物になったトッティに襲われ、次元の狭間に迷い込んでは、秘密の花園で魔法を教わったこと。そして、小悪魔との戦い。
どれも前(一度目)の夏休みでは経験したこともすることも出来ないことばかり。
それが、ほぼ毎日何かしらの不思議……ファンタジーな出来事が起きている。
魔女と出会ってから普段とは全然違う夏休みを過ごせている。
きっと、この七不思議を調べることになったら、もっとファンタジーな経験をすることが出来るだろう。
「うん、ボクも調べたい、この伊河七不思議を。だから魔女さん、協力してくれるよね?」
ヒカルの頼みに魔女は満面の笑顔で返した。
それは承諾の|証あかし》だと察する。
「ヒカルがそう言うんじゃ仕方ないわね。良いわ、協力してあげましよう。た・だ・し!」
魔女はビシっと人差し指を立てて、ヒカルたちの前に突き出す。
「私が“魔女”であるということは秘密にしましょう。これ以上、私が魔女だと知られるのも、アレだしね。もし私の正体をバラしたら……」
「バラしたら?」
「それは内緒。ただ、魔女の約束を破った輩がどんな末路になるかは……色んな物語で語られているでしょう」
魔女の意味深長な言葉にヒカルたちは息を呑み、従順に頷いた。
「なにわともあれ、魔女さんが協力してくれるし、どの七不思議から調べようか?」
ナツキが提言すると、
「やっぱり、この沈んだ島だよな」とツヨシが発言すれば、ヒカルも意見を述べる。
「それも面白いけど、最初は調べやすいのが良いんじゃない。お化け枯木と思われる永久の枯れ木とか」
「んー、お化け枯れ木か。だったら、この地下迷宮は‥‥」
白熱の話し合いを繰り広げているヒカルたちの姿に先ほどから魔女の口元は緩みぱっなしだった。
それは魔女もまたヒカルたちと同じ様に心を踊らせていたのである。ヒカルたちの未来に、そして自分も知らぬ未来に対して。
ヒカルと魔女との夏休みファンタジアは、始まったばかりなのだ。
つづく・・・?
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