4日目 小悪魔-ティルン-

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   ⑦  ヒカルたちは道中(どうちゅう)に在ったコンビニに立ち寄り、設置(せっち)されているベンチに腰を落としていた。 「‥‥で、魔女(マギナ)さんと言う人がアヤカを助けてくれた。と‥‥これを送信っと!」  ナツキは慣れた手つきで携帯電話を操作してメール文章を打ち込み、魔女(マギナ)やこれまでの詳細(しょうさい)をアヤカに送った。 「しかし、菊池の母ちゃん、ちょっとおっかなかったよな」  自分(ツヨシ)たちに()()ない対応(たいおう)をしたアヤカの母の感想(かんそう)()べると、ナツキが話しに(くわ)わる。 「アヤカのお母さん、(きび)しい人だからね。アヤカの家に遊びに行くといつも緊張(きんちょう)しちゃうのよね」 「一応(いちおう)、お見舞(みま)いなんだから、もう少しゆっくりさせてくれても良いのにな」 「魔女(マギナ)さんの(くすり)で治ったとはいえ、病み上がりだったからしょうがないわよ」 「そういえば、その魔女(マギナ)さんは?」 「そうよね。夢で現れて、私たちを助けてくれたのに‥‥。一緒に戻れなかったのかな? どうなの、ヒカル?」  ナツキはベンチの(はし)(すわ)っているヒカルに声をかける。 「え? どうっていうのは‥‥?」 「魔女さん、なんで姿を現さないのかなって。それに何か話していたでしょう」 「ああ、確か。誰かが(つく)った世界に入るのは難しいとかなんとか言っていたから、出るのも難しいのかな?」 「なるほど。でもまあ、魔女(マギナ)さんだったら大丈夫よね」 「多分ね」 「そうだ、ヒカル。夏休みの“自由研究(じゆうけんきゅう)”は何をするか決めた?」 「え、突然(とつぜん)なに?」 「本当は魔女(マギナ)さんをアヤカに紹介した時に、ついでで訊くつもりだったけどね。ほら、せっかく魔女(マギナ)さんという本物の魔女が居るのだから、魔女(マギナ)さんの(ちから)を貸して貰えば、すごいことが出来るかなって」 「まあ、魔女(マギナ)さんと出会ってから、すごいことばかりが起きているけど‥‥。魔女(マギナ)さんに自由研究を手伝って貰うってこと?」 「そう。魔女(マギナ)さんが居れば、“伊河七不思議(いかわななふしぎ)”を解明できるって思ってね」 「“伊河七不思議(いかわななふしぎ)”?」 「私たちが住んでいる伊河市には、こういった七不思議伝説があるの」  ナツキは話しながらスマートフォンを取り出して操作をし、ブックマークしていたWebサイトを表示させてヒカルに見せる。  そのWebサイトには伊河市にまつわる七つの不思議な逸話が掲載されていた。 「えーと‥‥伊河湾(いかわわん)(しず)んだ島に、永久(とこしえ)の枯れ木、地下迷宮‥‥へー、こんなのが伊河市に。この永久(とこしえ)の枯れ木って、あのお()枯木(かれぎ)のことかな?」 「かも知れないし、そうじゃないかも知れない。このサイトには大雑把(おおざっぱ)な内容しか書かれていないし、真偽不明(しんぎふめい)なものばかり。だからこそ、これを解明したら面白いと思ってね」  ツヨシもディスプレイを(のぞ)き込み、(はな)しに加わる。 「確かに面白そうだな。良いね、やろうぜ。自由研究は、この伊河七不思議の調査解明をしようぜ!」 「なに勝手なことを言っているのよ」 「いいじゃないかよ。国府田先生だってグループでやっても良いって言っていただろう。俺も参加させろよ」  まだ夏休みの宿題には手つかずのヒカルにとっては、ナツキの提案(ていあん)(わた)りに(ふね)であった。  前の夏休みでは自由研究(じゆうけんきゅう)どころか、ほぼまったく宿題をやっていなかった苦い思い出があるヒカルは、今回の夏休みこそは宿題を終えたい気持ちはあった。  しかし―― 「魔女(マギナ)さんが、手伝ってくれるかどうかだね」 「そうなんだよね。だから一緒に説得(せっとく)して欲しいの」 「うん、分かった。魔女(マギナ)さんが戻ったら訊いてお‥‥」 「へー、七不思議の解明ね。良いわよ、手伝ってあげても」  突然、背後から話しかけられて、ヒカルたちは後ろを振り返ると―― 「「「ま、魔女(マギナ)さん!?」」」  魔女(マギナ)が待ち合わせの時間に遅れたのを誤魔化(ごまか)すような微笑(ほほえ)みを向けていた。 「い、いつの間に‥‥」 「ふふ、ついさっきよ。ヒカル」 「なんだかんだで、あそこから無事に戻れたみたいだね」 「まぁね。ちょっと手こずったけど……ああいった世界は入るのも(むずか)しいし、出るのも(むずか)しいのよね。まぁ、私じゃなければ次元(じげん)狭間(はざま)に迷いこんでいたでしょうけどね」  かなり危ない目であるが、軽い口調(くちょう)で話されると危機感も薄まってしまうものである。  三人は(おも)(おも)いに魔女(マギナ)無事(ぶじ)安堵(あんど)しては、先程の出来事―小悪魔(ティルン)―について質問したりした。 「まあ、そのことについては、当事者のアヤカちゃんが居る時にでも話してあげましょう。ところで、さっきの七不思議(ななふしぎ)の件。ヒカルは、どうするの?」 「どうするって?」 「まだヒカルの口から七不思議の調べたいとか言っていなかったから、(ねん)(ため)確認(かくにん)よ」 「ぼくは‥‥」  ふとヒカルは魔女(マギナ)と出会ってから、これまでの出来事(できごと)()ぎった。  ヒナシの森で突然(とつぜん)(あらわ)れた魔女(マギナ)と出会い、排水口の奥で化物になったトッティに(おそ)われ、次元(じげん)狭間(はざま)(まよ)い込んでは、秘密(ひみつ)花園(はなぞの)で魔法を教わったこと。そして、小悪魔(ティルン)との戦い。  どれも前(一度目)の夏休みでは経験(けいけん)したこともすることも出来ないことばかり。  それが、ほぼ毎日(まいにち)何かしらの不思議……ファンタジーな出来事(できごと)が起きている。  魔女と出会ってから普段(ふだん)とは全然(ぜんぜん)違う夏休みを過ごせている。  きっと、この七不思議を調べることになったら、もっとファンタジーな経験をすることが出来るだろう。 「うん、ボクも調べたい、この伊河七不思議を。だから魔女(マギナ)さん、協力してくれるよね?」  ヒカルの(たの)みに魔女(マギナ)は満面の笑顔で返した。  それは承諾(OK)の|証あかし》だと(さっ)する。 「ヒカルがそう言うんじゃ仕方ないわね。()いわ、協力(きょうりょく)してあげましよう。た・だ・し!」  魔女(マギナ)はビシっと人差(ひとさ)(ゆび)()てて、ヒカルたちの前に突き出す。 「私が“魔女(まじょ)”であるということは秘密にしましょう。これ以上、私が魔女だと知られるのも、アレだしね。もし私の正体をバラしたら……」 「バラしたら?」 「それは内緒(ないしょ)。ただ、魔女の約束(やくそく)(やぶ)った(やから)がどんな末路(まつろ)になるかは……色んな物語(ものがたり)で語られているでしょう」  魔女の意味深長(いみしんちょう)な言葉にヒカルたちは息を()み、従順(じゅうじゅん)(うなず)いた。 「なにわともあれ、魔女(マギナ)さんが協力してくれるし、どの七不思議から調べようか?」  ナツキが提言(ていげん)すると、 「やっぱり、この沈んだ島だよな」とツヨシが発言すれば、ヒカルも意見(いけん)()べる。 「それも面白いけど、最初は調べやすいのが良いんじゃない。お化け枯木と思われる永久の枯れ木とか」 「んー、お化け枯れ木か。だったら、この地下迷宮は‥‥」  白熱(はくねつ)の話し合いを繰り広げているヒカルたちの姿に先ほどから魔女(マギナ)口元(くちもと)(ゆる)みぱっなしだった。  それは魔女(マギナ)もまたヒカルたちと同じ様に(こころ)(おど)らせていたのである。ヒカルたちの未来に、そして自分も知らぬ未来に対して。  ヒカルと魔女(マギナ)との夏休みファンタジアは、始まったばかりなのだ。  つづく・・・?
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