第五章 海の国セグウェル

9/83
165人が本棚に入れています
本棚に追加
/509ページ
「そうそう。美しいけど、表情に乏しいらしいんだよね。まあいいや――つまり君が本性を明かせば、王にそれを利用されるってこと。一筋縄ではいかない相手なんだ。こちらが向こうの立場を利用するつもりなんだ、そりゃ向こうだって、こちらを利用しようとするだろう。気を引き締めていかないと」 「わた、僕……いつ本当のことを言えるのかな。ベルナールに男扱いされるの、ちょっと疲れてきたんだけど。彼、遠慮せずにすぐ触ってくるし、気づいたら傍にいるから、たまにびっくりしちゃう」 「……それは無自覚って奴じゃ……とにかく、もう少しの我慢さ、王女様。もしゲイル王を討つことができたら、ガレドニアの脅威はなくなる。その時に打ち明ければいい」 「いいの?」 顔を上げれば、魔法使いは初めて会った時と同じ、やさしい目をしていた。 「いいも何も、それは君が決めることだ。名前をあげたのは僕だけど、それを使うのは君なんだから」 「そっか……うん、とにかく今は、堅実なやり方を考えなくちゃ」 考え込む少女を見て、魔法使いが騎士に意味ありげな笑みを浮かべる。 それを受けた騎士は、何が言いたい、と眉をしかめたが、傍にいる少女を眺め、ふと表情を和らげた。 部屋にはわずかに、穏やかな空気が満ちている。 一人ぶつぶつと考え込む王女は、決意に満ちた目で、まっすぐにどこかを見つめていた。 * セグウェルの城は、細長い巻貝のような屋根をしている。 鱗のように敷き詰められた瓦は、橙や紫、青を溶かしたような不思議な色だ。 城の壁はやはり真っ白で、日が当たるたびに淡く虹色に光っている。 国の中央に佇む城は、立派な城壁に囲まれていて、中に入るのにまたもや役人に交渉しなければならなかった。 騎士だけでなく、珍しく魔法使いも付いてきて、ルイスが入るのを手助けしてくれる。 やがて青く頑丈な扉が開かれ、案内されるまま中に進む。 中の調度品は、ほとんどが貝殻や海の生物を模したものだ。 貝殻の形のシャンデリアは、真珠のような白い飾りが散りばめられている。 澄み渡った青い床は、水面のようだ。 洒落た彫刻や装飾品を見ながら、ルイスは思わず感嘆のため息を漏らした。 「こちらです」 辿り着いた玉座の間。 青い床に白く太い柱が立ち並び、海藻と真珠のような飾りがぐるりとそれを装飾していた。 最奥には、白く品のある玉座が備え付けられている。
/509ページ

最初のコメントを投稿しよう!