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「そうそう。美しいけど、表情に乏しいらしいんだよね。まあいいや――つまり君が本性を明かせば、王にそれを利用されるってこと。一筋縄ではいかない相手なんだ。こちらが向こうの立場を利用するつもりなんだ、そりゃ向こうだって、こちらを利用しようとするだろう。気を引き締めていかないと」
「わた、僕……いつ本当のことを言えるのかな。ベルナールに男扱いされるの、ちょっと疲れてきたんだけど。彼、遠慮せずにすぐ触ってくるし、気づいたら傍にいるから、たまにびっくりしちゃう」
「……それは無自覚って奴じゃ……とにかく、もう少しの我慢さ、王女様。もしゲイル王を討つことができたら、ガレドニアの脅威はなくなる。その時に打ち明ければいい」
「いいの?」
顔を上げれば、魔法使いは初めて会った時と同じ、やさしい目をしていた。
「いいも何も、それは君が決めることだ。名前をあげたのは僕だけど、それを使うのは君なんだから」
「そっか……うん、とにかく今は、堅実なやり方を考えなくちゃ」
考え込む少女を見て、魔法使いが騎士に意味ありげな笑みを浮かべる。
それを受けた騎士は、何が言いたい、と眉をしかめたが、傍にいる少女を眺め、ふと表情を和らげた。
部屋にはわずかに、穏やかな空気が満ちている。
一人ぶつぶつと考え込む王女は、決意に満ちた目で、まっすぐにどこかを見つめていた。
*
セグウェルの城は、細長い巻貝のような屋根をしている。
鱗のように敷き詰められた瓦は、橙や紫、青を溶かしたような不思議な色だ。
城の壁はやはり真っ白で、日が当たるたびに淡く虹色に光っている。
国の中央に佇む城は、立派な城壁に囲まれていて、中に入るのにまたもや役人に交渉しなければならなかった。
騎士だけでなく、珍しく魔法使いも付いてきて、ルイスが入るのを手助けしてくれる。
やがて青く頑丈な扉が開かれ、案内されるまま中に進む。
中の調度品は、ほとんどが貝殻や海の生物を模したものだ。
貝殻の形のシャンデリアは、真珠のような白い飾りが散りばめられている。
澄み渡った青い床は、水面のようだ。
洒落た彫刻や装飾品を見ながら、ルイスは思わず感嘆のため息を漏らした。
「こちらです」
辿り着いた玉座の間。
青い床に白く太い柱が立ち並び、海藻と真珠のような飾りがぐるりとそれを装飾していた。
最奥には、白く品のある玉座が備え付けられている。
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