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「見送りは結構ですので、ここで。それでは失礼致します」
丁寧にお辞儀をして園長室を出たヒドウが廊下を抜け、玄関から出ようとしたまさにその時、大きな影が逆光となって目の前に現れた。
ヒドウが驚きを顔には出すことはなかったが、内心は大きく動揺せざるを得なかった。
そこには保育園を去ったはずのヴェイツが、信じられないものを見たような顏をして立っていたのだ。
「どうしてハイドがここに……」
「貴方こそどうして……」
「少し前に隣の教会に立ち寄ったんだが、愛用の万年筆を落としたらしくてな。こちらに届けられていないか聞いてみようかと……まさか、俺を尾行て来たのか?」
本当は園長室で寄付金を受け渡した際に、万年筆を忘れてしまったのだろう。
ヴェイツの口ごもり方から、プライベートの時は、嘘やはったりが苦手な男のようだとヒドウは感じた。
「あらあら、なんの騒ぎですか?」
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