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月明かりに照らされた、ハーディテェルツ王城の庭園。ユーリはランタンを片手に薔薇園へと向かう。
「おーい、ミーア・トラン・ハーディテェルツ。王国の美しい宝石ミーア。」
ユーリが声を上げると、暗がりから彼めがけて何かが投げつけられた。
「痛っ。」
地面に転がる花飾りのついた靴。ユーリはそれを拾い上げ、薔薇の生垣の向こう側を覗き込む。
「ミーアみつけた。」
「…………。」
生垣の陰に、薔薇の花に埋もれて膝を抱えるミーアを見つける。
ユーリはランタンを置きミーアの正面に跪くと、彼女の足をとり持っていた靴を履かせた。
「王女が靴を投げたりしたらいけないよ。」
「だって、ユーリにイラついたんだもん。」
今にも涙が零れ落ちそうな瞳をユーリに向けるミーア。
「ユーリはいいわよね。ずっとここにいれるんだから。私の気持ちなんて分からないでしょう?」
「そんなことないよ。ミーアが辛いのは分かるよ?だってミーアはこの国のことが大好きだもんね。」
そう言ってミーアにハンカチーフを差し出すと、彼女は奪うように受け取り涙を拭う。
「お母様が言うことだって分かるけど、どうしてもハーディテェルツ王国を出たくないわ!しかもヴェルダニアの王子と婚姻なんて……。」
「うん、そうだね。分かるよ。」
しかし、王女として生まれたからには政略結婚などよくある話だとユーリもミーアも理解はしていた。
ユーリはミーアの言葉に頷き、彼女の手を握る。
「俺だって本当はミーアにヴェルダニアなんかに行って欲しくないよ。出来るなら、こんな婚姻潰してやりたい。」
「ユーリ……。」
「でも、出来ないんだ。俺はこの国の王子で、ミーアは王女だ。生まれた時から国の為に生きていかなきゃならないって決まってる。」
ユーリはミーアの手を強く握ったまま深く頭を下げる。その彼の手が震えていることに、ミーアは気がついた。
「ミーア、君ひとりにこんな辛い思いをさせてごめん……!」
「……ううん、もういいわ。だって仕方ないことだもんね。」
ユーリの顔に、ふわりとミーアの柔らかな髪がかかる。気がつくとミーアに抱き締められていて、ユーリも彼女の背中に腕を回す。
ミーアはユーリの肩に顔を埋めて、しゃくり上げるように泣いていた。
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