エピローグ

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 ところで、光とは電磁波の一部であり、電磁波のうち波長が2ナノメートルから1ミリメートルの範囲のものを指す。  その範囲を超える長い波長のものは、電波と呼ばれる。光とは異なり、電波の人体透過性は高い。  そこで彼は、光の中でも電波に近い波長である赤外線で光合成するシアノバクテリアの改良を重ねることで、電波を利用した酸素と栄養の合成が可能な細菌を作り出すことに成功した。更にその細菌に対し、細胞内寄生菌であるリケッチアの遺伝子をつけ加えることで、ヒト細胞内での生育を可能にした。  彼が自らを含め多くの人達に行った処置とは、その細菌を人間の細胞内へ共生させるものだったのである。  ミトコンドリアや植物の葉緑体といった細胞内器官も、元はといえば外から細胞内へ入り込んだ細菌だという点を考えれば、それほど突飛な考えではないとも言えるだろう。  電波の届く範囲内にいる限り、細菌は人間の各細胞へ酸素や栄養を供給し続ける。だから例え心停止や出血多量により血流を介した酸素や栄養の供給が途絶えても、細胞は死なず、したがって人間も死ぬことはない。  もちろん、その状態のままでずっと生き続けられるわけではない。  植物が光合成だけでは生きていけず根からの養分吸収を必要とするように、血流が途絶えたままでは体内で合成できない微量元素の類は不足していく。老廃物も蓄積し、細胞は徐々に死んでいくだろう。だが、何らかの医学的処置をするには、十分な時間が稼げるのだ。
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