言葉と勇気

7/17
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
「さ、て、と。モミジちゃん、君が探してるのはこれだろう?」 「リュック。エイミの」 魔王はモミジの目の前に降りて、モグラの所で見つけたリュックを差し出した。うつろな目で彼女は応える。瞳孔が開き、奥で魔方陣が揺れていた。今、彼女を動かしているのは、力そのものらしい。 魔王でさえ引くほどの圧迫感がある。加減を知らない、というのはこういうことを言うのか、と彼はひそかに思っていた。破天荒な自分でさえ、どこかでセーブをかけているところがある。力に飲まれないように、ある一線を踏み越えないように。目の前のモミジはそういうことを学ぶ前に、すでに力がそこにあった。自我の前にそれが存在したのだ。 モミジの手が、ゆっくり伸びてくる。それに伴って彼女を取り巻く砂の障壁が近づく。障壁がゆっくり口を開けた。 「はい、捕まえた」 彼はすかさずそこに手を入れて、モミジの細い手首をつかんだ。持っていたリュックを竜王のほうへ放ると、驚いて締まりかける障壁を手でこじ開ける。モミジの魔力と魔王の魔力がぶつかって、あたりに散らばった。 「あいた!」 一つがブロイに当たって悲鳴を上げる。一つは婿殿の脚の間に、一つは竜王のひげを焦がした。一つは森に落ちて火をおこし、一つはクリスタリアの髪の毛を焦がす。 「閉めないで。開いてくれないと、助けてあげられないよ」 声はとても穏やかであったが、彼の眉間は深く皴を刻み、腕には血管が浮いていた。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!