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部活動の遠征で中村(仮名)が宿泊した宿は、よく言えば昔ながらの、悪く言えば時代遅れの宿だった。
二人一組で割り当てられた部屋の襖を開けた瞬間、嫌な感じがした。
部屋の奥にある床の間に、ガラスケースに入った二体の人形が目に入ったのだ。
廊下に比べ、部屋は極端にひんやりとしている。
「……なんか、怖くね?」
同室になった加藤が、声を潜めて言った。まるで人形に聞こえるのを恐れるかのようだった。
種類は詳しく分からないが、男雛と女雛のような切れ長の目の日本人形を、立たせて少し大きくしたような見た目だ。
その人形以外は、布団の入っている押入れと、有料のテレビ。
「お前、どっちに寝る?」
「俺、壁際な」
「ふざけんな。俺だって壁際が良い」
極力人形の近くに寝たくない為にしばらく2人で争ったが、最終的に床の間に頭を向ける形で、中村が男の人形、加藤が女の人形の前に落ち着いた。
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