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「本当の志野さんはすごくえろかったです」
「うるさい。守はしつこかった」
「今のちょっとショックです」
双丘を開いてまだぬめったままの秘部を遊ぶように中指の腹でつつく。
「俺がしつこいのは、志野さんが好きだから。このくらい粘着質じゃないと、あなたと一緒にいられませんよ」
何か言いたそうな顔で志野は俯き、額を守の肩に当てた。
「足を洗うかどうかって話、すぐに答えは出せない。中国人の男との落とし前もつけていないし、オヤジ達を説得しなくちゃいけない。何より、オレの整理がついてない」
志野の腕に咲く桃の華達をそっと撫でた。
「オレと付き合い続ける限り、守は今の仕事を辞めることになる。いいのか」
「ええ。覚悟は出来ています」
「ごめんな」
志野の声は皮膚を越え、心臓に沁みていった。謝る必要はない。働くだけならば、アルバイトでもなんでもいいのだ。社員という立場や肩書を失うのは、辛く、不安だが結末は決まっていたのかもしれない。志野のきれいな桃の華を見た時にもう守は絡め取られ、深く静かに沈んでいったのだ。
「もし」
志野がゆっくりと顔を上げた。
「いつか全てに決着がついたら、そんな日がオレの人生に訪れるならば、姉さんに会いたい。会って、父さんと母さんのお墓参りに行きたい。守も一緒に来てくれるか」
志野は言った。
言葉が出なかった。胸が痛いほど震え、涙が溢れないように強く目を瞑って志野をきつく抱き締めた。
「行きます。何年かかっても……」
嗚咽交じりに言う守に志野が笑ったのが解った。恥を捨てて目を開けると涙が零れたが、志野がとろりと微笑んでいる。
「はは。泣くなよ」
「だって」
「変な奴。出会った時からずっとそうだ。いいなって思ったオレの直感は外れたのかな」
守は目を丸くした。
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