第1話 様式美をなぞる

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第1話 様式美をなぞる

オレは味噌が好きだ。 オレは味噌が何よりも好きだ。 塩も、醤油も、わさびや辛子も遠く及ばない。 コショウにケチャップにマヨネーズなんかとは比較にすらならない程に。 この世に存在するあらゆる調味料の中で、ダントツで愛している。 仮に他の全てが消えたとしても、涼しい顔で暮らしていける自信があるくらいだ。 そんなオレの昼食。 一体どんな物になるかというと、答えはこうだ。 ーーパカッ。 まん丸オニギリが2つ。 どちらも具どころか海苔すら巻いていない純白(バニラ)タイプだ。 そしてオカズ用の小ぢんまりとしたタッパー。 そこにはラップで仕切りを作り、3つのツヤツヤ輝く味噌がいらっしゃる。 ーーあぁ、なんて美しいんだろう。 舌なめずりしつつ、オニギリに味噌を乗せる。 まずは赤味噌。 丁寧に塗りを調節していると、後ろから声をかけられた。 「オッス穣(みのる)。隣空いてるか?」 現れたのはサークル仲間の涼太(りょうた)だ。 オレの返事も聞かずに、長椅子の余っている方に腰を落ち着けた。 前屈みでいるのはお湯入りカップ麺を持ち歩いているせいか。 「おうリョウタ。講義は終わったのか?」 「休講。教授が風邪で休みだって。だからヒマしてた」     
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