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「ああ、そうでしょうね」
夏美はすっかり動きが止まってしまった私の手からニンジンを取って、微笑みながら皮をむき始めた。
「あなたは彼を好きなのね」
えっ? なんでそうなるの!?
私はあまりにも唐突で意外な指摘に驚いて目を見開いたけれど、赤面している事にも気が付いて、それにまた驚いて包丁を落しそうになって慌てて握り直した。
「気が付いていなかったの?」
それこそ意外そうに夏美が目を丸くしている。
気が付くも何も、一馬なんて好きじゃないはず……。
だけど、いつも突然の依頼でも、一馬からの電話があれば行ってしまう。
この仕事自体は胡散臭くて恐い思いもするけれど、仕事面では一馬には絶対的な信頼がもてるし、一緒に仕事をするのは楽しみだとは思う。
滅多にないけど、一馬に認められたり褒められたりすると嬉しい……。
いやいや、だけどそんなのはきっと一馬を好きだからじゃない!
この仕事自体に興味があるのだと思うし、この仕事においては確かに一馬の力は凄いと思うから、ある意味尊敬はしているのかもしれない。
だけど、恋心とかそういうのとは違う…………はず。
「なんだか混乱させちゃったかしら? ごめんね、深く考えないで」
夏美が申し訳なさそうに笑って、私は自分が頭の中がいっぱいになってしまっていたことに気が付いた。
「い、いえ。師匠としては尊敬しています」
慌てて仕事用の顔を作って微笑んだけど、もう遅いような気がした。
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