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アイロンくらいはいくらでも自分でかける。また新学期、袖を通すことになる制服は、きちんと洗われ皺も伸ばされ、真夜中の部屋の壁にしいんと掛けられている。二年B組、金山恵。緑のバッチが蛍光灯を反射して光る。
できることは自分でやる。
今のわたしには、お金を稼ぐことは、逆立ちしてもできない。学費も食費も光熱費も、服や靴やこまごまとした全ての品物も、体を壊した時にかかる医療費も、わたしには払うことができない。お世話にならなくてはならない。
いっそのこと、中卒で働こうと思った。
パパもまりあさんも、恵は出来がいいから大学まで行きなさいと言ってくれる。とんでもない、大学なんか一体、どれくらいお金がかかるんだろう。
(早く大人になりたい)
階下で、かたかたと穏やかな音がしている。
勉強をする時は無音。音楽などかけない。集中していれば物音が耳に入らないけれど、真夜中はどうしても音が響く。もうすぐ0時になる。なのに台所では、まりあさんがまだ起きている。まりあさん、明日お仕事なのに。
パパはもう寝ている。
机に向かって淡々と勉強を進める。
友達同士、色々なことがあるけれど、どんな面白くない事があった日も、この時間を通せば白紙に戻る。
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