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――その動画はひっそりと、世界へ開かれた。
有名人やアーティストの曲を、"歌ってみた"り、"踊ってみた"り。
カラオケルームでの熱唱や、テレビを介したダンスの模倣。
それらの表現行為は、ネットワークの発達により、内だけで終わらず外にもつながるものとなった。
投稿サイトの発達や、SNSでの共有。
そうした表現者達の一部は、それだけでは満たされず、自分だけのオリジナリティを目指す者も現れた。
その内のさらに一部、ほんの一握りは、新たな有名人やアーティストとして認知されていく。
――詠水 真呼美(よみみず まよみ)も、その内の一人。
ひっそりと投稿されたその動画は、自作の歌と、それにあわせた舞を収めたもの。
わずか数分のその動画は、膨大なネットの海のなかで、まるで金塊を見つけたかのように騒がれた。
投稿初日のアクセス数に、サーバーが一旦停止したという噂もある。
それほど、彼女は流星のように現れ、人々の関心事となった。
長い黒髪を白い紐で結わえた様は、まるで水引きをまとった巫女のよう。
シミ一つない白い肌がよく調和し、造りもののような造形美を感じさせる。
背景と舞に添うようにあつらえられた衣装は、ガーリーなものから和風なもの、退廃的なゴス系まで多種多様。
たたずむだけでも人目を惹くというのに、息吹をまとって舞い歌う姿は、『神』へ奉職する巫女のようだった。
初めの投稿を皮切りに、日々少しずつ、真呼美の動画は増えていった。
その全てが、歌い舞う、彼女自身を撮影したもの。
ストイックにそれだけを追求する彼女の姿は、逆に、視聴者へさまざまな想像をかきたてる。
――いつしか誰もが、真呼美の神秘性に打ちのめされ、胸を焦がすようになった。
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