タイムトラブル

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矢野(やの)の野郎、今日は調子悪くて参っちまったよ」 「そういうときは的場(まとば)だよ、ナカちゃん」 「まったくだ。戸崎が中央行っちまってからこっち、馬券が買いづらくて困る」 「しばらく買うのやめてみたらいいんじゃねえの」 「そんなのできっこない。馬鹿いわねえでくれよ」  いきなり地面が激しく揺れた――地震か、おい。 「ん? どしたよ、トキちゃん」 「いや……今、がくーんって揺れたよな?」 「単勝百十円がぶっこけるとそうなるね」  こいつの頭の中ではまだ馬が走っている。 「なんか顔色よくないねえ」 「胃が空っぽなんだよ。豚メシ食えば――」 ――ありゃ? なんだ、おい! いやいやいや、足に力が入らねえぞ! 「どした! トキちゃん! おい! ちょっと、誰か来てくれ!」  なんだ! なんなんだ! 死ぬのか!? 俺。こんな脈略もなくいきなり死んじまうのかよ!? つうか、おい、中村! 助けろよ! 苦しいぞ、おい! ちょっ……待ってくれ! 最期の瞬間をツイートさせろ! それぐらいの時間くれたっていいだろ、なあ、神様――あれ? 前にもこんなことあったな……まいっか、死んだらいいねも反応(リプ)もわかんねえし。つうかマジで月が綺麗なんだけど。
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