6.中間考査

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現在、平日の15時。 篠塚高校の優等な生徒なら、教室で席に向かい勉学に励む時間である。 しかし優等生の鑑であるはずの俺は、教室ではなく寮の自室で後輩と勉学に励んでいた。 粛然とする部屋。 始まったのはつい2日前だと言うのに、見慣れた光景にため息が漏れる。 なぜ国江くんが授業をサボってまで勉強会を督促したのかは知らないが、わざわざ俺を待っててくれた普段は気難しい後輩にNOとも言えず、疑問半分嬉しさ半分に授業を早退した。 早退と言うより、欠席。 教室にある荷物はコバに頼み、寮部屋直行である。 早退は怪我による療養を名目にしたのだが、そんなにやばい怪我なのか、と主に周から心配のメールリターンズ状態だった。 これ以上余計な心配させても嫌なので正直にサボりであると送っておいた。 『は?』と返ってきた。 非情なことに、今夜はお説教タイムである。 「あー、それはそうじゃなくて……」 悲しみを押し殺し、国江くんが問題集を解いているところに口を挟む。 国江くんは特に何も言わずに、改めて俺の言う通りに問題を解き直し始めた。 1番最初の時はこんな横槍を入れるようなことをしたらすごい勢いで睨みつけられていたものだが、こう考えると大きな進歩である。 やれやれ、夢の後輩による行列も遠くない未来の話になってしまったようだ。 それにしても、国江くんはあんなことがあったのにも関わらず今日まで勉強会とは、随分勉強熱心なことである。 テスト前の篠塚校生ならこんなものだろうか。 俺は頬杖を付きながら、淡々と問題を解いていく国江くんを眺める。 最初の見た時はキツめのツリ目が印象的だったが、よく見てみると結構まつ毛が長い。 いつ見ても小綺麗な顔をしている。 これで勉強もできてスポーツも出来て金持ちである。 大変おモテになるでしょうね。先輩はとても妬ましいですよ。 艶美で才色兼備ってか。 あ、韻が踏めた。 まぁ、艶美だか兼備だかバンビだかは知らんが、ここは泣く子もホモる私立篠塚男子高等学校。 女の子は居ないが、安心してくれ。 幸せな男だらけの恋愛ハッピーデイズを約束しよう。 「あの」 薔薇の園で素晴らしい恋愛を繰り広げている国江くんを妄想していたら、不意に国江くんが声をかけてきた。 しまった、ガン見しすぎたか? 「なんで、なんにも言わないんですか?」 「へ?何が?」 国江くんが言ったことの意図が読み取れず、素っ頓狂な声が出てしまった。 てっきり、キモい面こっちむけんなとか言われると思っていたから、すごい身構えていたのに。 そう。これも進歩である。 2日前だったら絶対言われてた。むしろ一生そのキモい面見せんなぐらいは言ってた。 やはり国江くんは俺を先輩として…… 「……ニヤニヤしながらこっち見ないでください。キモい」 「大変失礼しました」 やっぱりあんまり変わってなかった。 いや、でもハエから蟻ぐらいの扱いにはなった気がする。 そう、ほら、ちょっと言い方が柔らかいでしょ。 具体的にどこがかと言うと……ふ、まぁ皆まで言うまい。 国江くんは、現実を直視出来ないでいる俺にジトっとした目を向けながら話を続けた。 そ、そんなにキレないでも…… 「何がって、言ったでしょ。俺の家の会社、借金あったぐらい上手くいってないんです。」 「ああー、言ってたね。」 上手くいってるとか、無理やり傘下にとか、大変なことなんだろうが庶民の俺にはピンと来ない世界だ。 そもそも傘下になるとどうなるんだ?やっぱり焼きそばパンと週刊誌を買いに行ったりするんだろうか? 「……だから、言うことないんですか?」 「言うことって言われても……」 国江くんが気まずそうに聞いてくる。 どこか、説教前の子どものような、そんな表情。 ……そんな顔をされても、さっきっからなにを言われてるのかさっぱりだ。 やーい傘下、とでも言って欲しいのだろうか? 返答に困ったが、国江くんから俺の発言を受け入れる準備が出来たみたいな感じの雰囲気が出てるからとりあえずなんか適当に言うことにした。 「あー、ほら。傘下って実質相合傘じゃん。」 「は?」 「だから俺の傘下に入ったら俺と相合傘できるよ。」 「ふ、なんですかそれ。」 ハハ、と口元を軽く抑えながら笑う国江くん。 いや、今の苦しいジョークのどこに笑うところが…… ……笑った……? あの国江くんが……!? 狼狽している俺を見てか、ただ単に笑い終わったのか、国江くんはまた顰めっ面に戻ってしまった。 あぁ、もったいない。 もっと俺の頭のHDDに保存しとけばよかった。 でもあの笑顔はとても可愛らしかったので、俺の脳内で裁判長が判決を述べた。 国江くんは受けです。
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