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 私の茶道の先生は、民俗学を専門とする研究者でもある。フィールドワークで土地の話を聞き集めるためか、いわゆる怪談の類にも驚くほど詳しい。  これはそんな彼女から聞いた、地元にまつわる話の一つ。  あるとき、行きつけの美容室の人が亡くなった。交通事故だった。  まだ働き始めたばかりの、明るく人柄のいい青年だった。将来は独り立ちして店を持ちたいのだと、毎日一生懸命仕事に励んでいた。  帰宅途中、見通しのいい道路での自損事故。まだ明るい時間帯で、ぶつけるようなところもないのに、車は恐ろしいほどに大破していた。それは運転していた彼も同様で、  「どうしても見つからなかったの。千切れて飛んだ首だけが」  いつも通りの品のいい着物姿で、さらりと言われて手が止まる。ちょうど、出された練り切りを真っ二つにしたところだった。  「ご両親も親戚の人も、だいぶ探したんだけれど。やっぱり出てこなくて、お墓の中に入れてあげられなかったの」  つまり、親類は最後に顔を見られなかったわけだ。それはお気の毒に、と、ひとまずその場に相応しい相づちを打ったのだが、  「それがねえ。そこの道路って、ひどい事故がだくさん起こるみたいなの。昔から」  さらなる嫌な情報が返ってきた。もはやお菓子を食べるどころではない。練り切りをわきによけて、話のつづきを待つことにする。
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