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エリザベートはケーキを受け取るとその場ですぐにパクリと食べた。
「おいしい!」
満面の笑みを浮かべるエリザベートに観客から、大きな拍手が起こった。
あとで、毒見させてからでないとと叱られたが、エリザベートは平気だった。
あのとき、会場のどこかにマルセルがいて、そしてエリザベートに憧れていたのだ。それを考えるだけで、なんだか幸せな気持ちになる。
もうそれだけで充分だ。
それにしたって、シュザンヌとエリザベートではだいぶ年が離れているのに。
マルセルは立派な行いをする姫は、同じ年ぐらいのエリザベートではなく、年上で美人姫のシュザンヌだと思い込んでしまったのだろう。
でもとてもうれしい。
しばらくは、自分だけの秘密にしておこう。
ライ麦パンを食べ終わってから、マルセルがカッスルロッシュに乗り、エリザベートを引っ張り上げた。
「リジー、しっかりつかまって。なるべくゆっくり飛ぶけど、落ちたら危ないからな」
「分かった」
エリザベートは再び、マルセルの体に腕を回した。マルセルは息を吐いた。
「苦しい?」
心配になって、エリザベートが聞いた。力を入れ過ぎてしまったのだろうか。
「いや、少し緊張してるだけだ」
マルセルの言葉に、エリザベートは少し笑った。そして、マルセルの背中を軽くピタンと叩いた。
緊張しているというなら、エリザベートだってそうだ。抱きつかなくてはいけないのだから。
マルセルが笛を一回吹く。カッスルロッシュは翼を羽ばたかせ始める。
すごい風が吹き、辺りの物が飛んでいく。
カッスルロッシュは羽ばたきながらも軽く跳ね、ふわっと浮きあがる。そこから空に向かって真っすぐに昇り始め、しばらくすると風に乗るようにして進む。
滑空する姿は相変わらずカッコいい。
「ねえ、カッスルロッシュ!」
エリザベートは大声で話しかけた。
「大好きよ! あなたのことが! あなたはやさしくて、とても素敵だもの。これからもずっとずっと変わらずにいてね!」
カッスルロッシュは短い咆哮をあげた。
分かったと言っているようにも聞こえたし、口実に使うなと言っているようにも聞こえた。
風がエリザベートの髪をさらって後ろになびかせた。
胸元には竜の牙で作った首飾りが揺れている。
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