第1章

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 エリザベートはケーキを受け取るとその場ですぐにパクリと食べた。 「おいしい!」  満面の笑みを浮かべるエリザベートに観客から、大きな拍手が起こった。  あとで、毒見させてからでないとと叱られたが、エリザベートは平気だった。  あのとき、会場のどこかにマルセルがいて、そしてエリザベートに憧れていたのだ。それを考えるだけで、なんだか幸せな気持ちになる。  もうそれだけで充分だ。  それにしたって、シュザンヌとエリザベートではだいぶ年が離れているのに。  マルセルは立派な行いをする姫は、同じ年ぐらいのエリザベートではなく、年上で美人姫のシュザンヌだと思い込んでしまったのだろう。  でもとてもうれしい。  しばらくは、自分だけの秘密にしておこう。  ライ麦パンを食べ終わってから、マルセルがカッスルロッシュに乗り、エリザベートを引っ張り上げた。 「リジー、しっかりつかまって。なるべくゆっくり飛ぶけど、落ちたら危ないからな」 「分かった」  エリザベートは再び、マルセルの体に腕を回した。マルセルは息を吐いた。 「苦しい?」  心配になって、エリザベートが聞いた。力を入れ過ぎてしまったのだろうか。 「いや、少し緊張してるだけだ」  マルセルの言葉に、エリザベートは少し笑った。そして、マルセルの背中を軽くピタンと叩いた。  緊張しているというなら、エリザベートだってそうだ。抱きつかなくてはいけないのだから。  マルセルが笛を一回吹く。カッスルロッシュは翼を羽ばたかせ始める。  すごい風が吹き、辺りの物が飛んでいく。  カッスルロッシュは羽ばたきながらも軽く跳ね、ふわっと浮きあがる。そこから空に向かって真っすぐに昇り始め、しばらくすると風に乗るようにして進む。  滑空する姿は相変わらずカッコいい。 「ねえ、カッスルロッシュ!」  エリザベートは大声で話しかけた。 「大好きよ! あなたのことが! あなたはやさしくて、とても素敵だもの。これからもずっとずっと変わらずにいてね!」  カッスルロッシュは短い咆哮をあげた。  分かったと言っているようにも聞こえたし、口実に使うなと言っているようにも聞こえた。  風がエリザベートの髪をさらって後ろになびかせた。  胸元には竜の牙で作った首飾りが揺れている。
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