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第1章
プロローグ
その怪物は、充血した双眸を光らせ、こちらを伺っていた。
一フィールあろうかというその両目をよくみると、膿がはびこり、黒蠅たちが飛び交っている。緑色の瞳をぎょろつかせ、こちらをじっと見ている。鋭い眼光は、岩石をも貫き通すほどの威圧をあたえる。
「で、契約というのは?」
ゴドル・オルートス大公(公爵(デュクス))は、その醜い目を直視することは出来ず、ひとまずそう尋ねた。
「契約というのは何ゆえ?」
しかし、その怪物はなにも答えなかった。
巨大な牛の如くその顔を突き出し、ひたすら涎を垂らしている。眼前にいる小さい男を品定めでもするかのように、嘗め回し、褐色の皮膚の毛を逆立て、口元に溜めた泡を循環させている。ゴドル・オルートスはその悪臭に耐えられなかった。
これが元来伝承された魔物の姿なのか? これが世に伝え聞く邪悪の化身なのか?
とてもこの世のものとは思えない。
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