序章

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序章

 寝転んでいる状態で、テレビがまるで自分の思考を読み取ったかのように、自動で『自分の見たい番組』を映して欲しいと思ったことはないだろうか?  別に、テレビに限った話ではない。キーボードによるPCへの文字入力、携帯電話などの端末(デバイス)の操作。キーボードはあなたの頭に思い描いた文字を入力し、端末はあなたの見たいと思ったWebサイトに接続(アクセス)してくれる。物体があなたの手元に存在していなくとも、まるで見えない三本目の手が自分の体から生えたかのように物体が操作され、自分の考えた通りの結果が得られる。テーブルの上にあるリモコンに手を伸ばすことなく、寝転んだままテレビの番組を変えたいと思ったことはないだろうか?    あと少し自分の身長が高かったら、と思ったことはないだろうか?  別に、身長に限った話ではない。体型や顔、眼の色、鼻の形。自分自身に対する劣等感は、誰でも大なり小なり持っているものである。そしてそのいくつかは自分の努力次第でどうにか出来るものもあり、自分の努力次第でどうにも出来ないもの、出来なくなるものが大半だ。そうした劣等感を、克服したいと思ったことはないだろうか?    隣の芝は青く見え、幸せの青い鳥は何処を探しても見つからない。    こうした人間の欲求を叶えるために、人類はある解決策を提示した。  それは、自らの肉体の拡張。  イメージとしては、幻肢痛を逆手に取ったやり方と思ってもらえば、理解しやすいだろう。  幻肢痛とは、事故などにより手足が切断されて『なくなった箇所が痛む』という疼痛だ。痛みを感じている場所は既に切断されており存在しないため、痛み止めや麻酔も効果がない。これは脳に手足がなくなったという情報が『更新されていない』ことによって起こる症状だ。  その幻肢痛を、逆手に取る。人間の体外にある物質を、脳に自分の体だと誤認させるのだ。  人間の体が動くのは脳から手足を動かすように電子信号が送られるからであり、この電子信号を体外の物質に伝えることで、その物質を自分の体の一部として取り込む。こうして皮膚を伝い流れ出た人間の電子信号(感情)は物質に伝わり、その物質はその使用者の一部、拡張した肉体となるのだ。
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