富士登山への思い

6/6
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
現代 「ってのが、富士山の歴史だそうだよ」 「で、それが今の私とどういう関係があるわけ……」  夜、日付変更と共に、八合目の山小屋を出発した二人は、今九合目にある鳥居をようやく通るところであった。 「いや、気が紛れるかなぁと思ってさ」 「そんなことで、気が紛れるわけないし、聞く余裕なんてないわよ」  女性はどうも、軽い高山病に(おちい)っているようで、若干顔色が悪いようにみえる。 「まぁ、少し休んだら落ち着くかもね。頭が痛いわけじゃないだろ」 「そこまではまだ、大丈夫かな」  その言葉を聞いた男性は、ふっと笑みを浮かべると上を指さす。 「ほら、これを見てごらんよ。山頂から、俺たちのさらに下まで、続く光の道。これだけの人たちが、富士山に登ってるんだ。凄いことじゃないか」  そう、今も昔もあるものを見るために、皆が真夜中に富士登山をするのである。  一昔前までは、夜に登り始め、真夜中をひたすら登山するという、弾丸登山が推薦されていた。だが、今はそれで危険な状態になり、時には命を落とすことにもなりかねない為、明るいうちに、山小屋まで行き、そこで夕方から日付変更までに仮眠をとり、体をならすことを進められている。  彼女も、それがあったために、大事に至ること無く、少し体調が悪い程度ですんで居るようだ。 「もう大丈夫みたい、いきましょうか」  顔色が良くなった、女性が笑顔を向けると、男性も柔らかい笑顔を返した。  上を見上げた女性は感嘆の声を上げる。 「凄い、光が一列に連なって、綺麗ね」 「ああ、これが多くの歴史のなかで、皆が見てきた景色さ。だが、それ以上のものがこの後に待っている。山頂までがんばろう」 「ええ」  空が白み始め、その頃、二人は山頂で眼下を見下ろしていた。  そこに光り輝く日の光が降り注ぐ。 「ご来光(らいこう)だ。みなこれを求めて、やってくるんだ」 「とても綺麗、心があらわれるようだわ」  二人は、その光に照らされ、満面の笑顔を見せる。  この笑顔は、世代を超え、千年以上も昔から、皆が見てきた景色が見せた物で、あったのであろう。  そして、これからも、未来永劫続いていくことを皆が願い祈り、引き継がれていくことであろう。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!