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雄隆さんの言葉に甘えてこのお迎えを受けている私は心の底で喜んでいるところがあった。それは少しでも早く、長く雄隆さんといたいという気持ちから連なる喜びだった。
「もういいのか」
「はい、片づけ終わりました」
「じゃあ帰るか」
「はい」
何気ない毎日の中の、いつもの決まり文句だったけれどそれを言い合える瞬間があることがとても幸せだった。
自然と繋がれる掌を緩く握りしめると雄隆さんも少し強く握り返してくれる。
帰り道ですれ違うご近所さんに見られてもふたりしてほほ笑んで軽く挨拶する。そんな私たちだから周りからはおしどり夫婦なんてありがたい称号までいただいた。
私も随分変わったと思うけれど雄隆さんもとても変わったと思う。
出会った頃の、人を寄せ付けない独特のオーラはなりを潜め、今は積極的に周りの人たちとコミュニケーションを取っていこうという気概が見える。
雄隆さん曰く『子育てするのにいい環境を作って行かないとな』ということらしいけれど、理由はどうあれいい方向に変わって行っている雄隆さんを見るのはとても嬉しかった。
「美野里」
「はい」
不意に名前を呼ばれ考え事をしていた意識が雄隆さんに向いた。
「家に帰ったら見せたいものがある」
「見せたいもの?」
「あぁ」
雄隆さんがそんなことをいうのは珍しくて思わず首を傾げた。
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