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好きなひとが川の姿をしていても、ぼくは別にかまわなかった。
その子は何百年も生きているからか不思議な力があって、心だけを外に出して、少女の姿を形作ることができた。川べりに遊びに来た人の話に、昔からたくさん耳を傾けていて、時々ひそやかな助言もして。遠くに行けないその子はそうやって、人間にとっては長すぎる時間を過ごしてきた。
別にただの暇つぶしやけんね。誰のためでもなかとよ。――ほとり、という名を名乗るその子は、不思議な方言を混ぜて説明してくれた、六十年くらい前までは、この土地の誰しもに使われていた響きみたいだった。
ほとりという名前だってほんとじゃなくて、もっと由緒正しい名前で呼ばれていたらしいけど、長くて本人も覚えてないみたいで。忘れられていくのは仕方ないっちゃねなんて、いつかの日にけなげに笑っていたほとりの強がりは、ぼくにとってはあんまり上手じゃなかった。
「釣れんけんねえ……」
「うん」
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