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命の大切さを叫びながら、スーパーに並ぶ肉を食らい、虫を潰しながら保健所で処分されるペットに涙を流す。そんな狡猾な道徳性を生まれつき持てない性質だっただけのこと。
だから、美里奈が悪だとは思わないし、痛めつけられることが当然の報いだとも思わない。たとえ、美里奈本人が他者から受ける迫害を迫害だとすら思っていなくとも。
――俺が守らなければ。
妹の身体を抱きしめながら、俺は心の中で己に誓う。
「もう……甘えんぼだなぁ、お兄ちゃんは」
その一方で俺の心中など知る由もなく、美里奈は呑気にそう言いながら、子供をあやすように、俺の背中を手でぽんぽんと叩いていた。
美里奈はすべてを包み込む。
まるで、この世のあらゆる醜悪を全肯定するように――
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