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ぼんやりと寝ぼけ眼を擦る美里奈は朝食のオートミールをちびちびと食べる。
「やっぱ、お兄ちゃんの料理はおいしいね」
「ただ煮込んだだけだけどな。そのオートミール」
「それでも、お兄ちゃんが作ってくれるとおいしい……気がする」
輝くような笑顔を向けられると、俺も嬉しさに頬を緩める。
美里奈なら、たとえどんな酷い味の料理を口にしたところで「美味しい」と言って食べてくれることだろう。それでも、やっぱり面と向かって言われるのは喜ばしかった。
朝食を終え、制服に着替え、鞄を持ち、登校の準備を完了する。
「じゃ、行ってきます!」
「ああ、行ってきます」
今となっては俺たち兄妹二人しかいない芦屋(あしや)家。当然、二人揃って家を出れば後には誰も残らない。それでも、父さんや母さんが生きていた頃の習慣で、美里奈は「行ってきます」という。
どれだけ虐待を受けても、どれだけ酷い親でも、美里奈に取っては二人とも家族だったのだろう。
そして、俺たちの通う縁山(ゆかりやま)学院高等学校に向かうため、最寄りの駅へと向かう。
通勤中のサラリーマンや学生たちでごった返す朝のホームは、一日で最も神経を使う時間帯だった。美里奈が人とぶつかって怪我をしたり、線路にでも落ちたりしたらと思うと気が気じゃない。
ただ、幸いにして今までにそんな事態になったことはないが。それでも、気を付けるに越したことはなかった。
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