9.クラスメイトと_3

7/22
3375人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
声は掛けない。 そう、上野は相手の言葉をゆっくり待てる賢い子。 腹が鳴りそうになって、グッと力を込める。こんな場面で腹の虫に鳴かれたら何かが台無しになりそうだ。 ただ、賢い子も空腹には勝てないから、もうそろそろ話を始めていただきたい。 「「僕たちともう一緒にいたくない…?」」 何で男にそんなことを聞かれなきゃならない。俺はガッキーに言われたいよ。 そう言いそうになったが、頑張って口を噤んだ。 俺の胃の中を覗いたみたいなタイミングでぼそぼそと話を始めた。ありがたいけど、内容が絶望的だと思う。 これじゃ、この前と同じだ。というか、こいつらはまた同じことを言っている。 質問ばかり俺に投げて、全てが受動的だ。 「袖、離して?」 双子は黙って袖を離さない。 「…別に走って逃げようとか考えてねえから、一旦離して?」 やっと引っ張られる感覚が消えて、俺は体を反転させた。 目の前には気まずさを最大限に滲ませる双子の顔。その頬を片手でギュッと押し潰した。右手は憂、左手は坂だ。 ぐえっとカエルのような呻きが聞こえるが気にしない。イケメンは顔が物理的に潰れてもイケメンだからすごい。 周りの人の影響を受けて付き合う人を選ぶほど、俺はヤワじゃありません。迷惑を被るかどうかでつるむかを決めるほど、腐った根性も持ってません。一緒にいたくないかについては、少し前まではちょっとばかしそう思ってましたが、千田のアドバイスをもらって1日2日寝たら割とどうでもよくなりました。お前らと放課後話すのはまあ楽しいです。生徒会室っていう場所が無ければ、話さないだろうけど。それでも、向き合ってやろうとか待ってやろうとか、らしくもないことを思うのはなんでだろうね。それはまあ、初めての経験なので俺もまだ分かりません。 そんなことを言ってやるつもりはないから、顔面を捏ね回す。早朝に仕込みをするパン屋もびっくりの手捌きで捏ね回す。 いつまでも重い彼女みたいなことを垂れていることへの腹いせ。あと、ついでに押し倒された分も。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!