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声は掛けない。
そう、上野は相手の言葉をゆっくり待てる賢い子。
腹が鳴りそうになって、グッと力を込める。こんな場面で腹の虫に鳴かれたら何かが台無しになりそうだ。
ただ、賢い子も空腹には勝てないから、もうそろそろ話を始めていただきたい。
「「僕たちともう一緒にいたくない…?」」
何で男にそんなことを聞かれなきゃならない。俺はガッキーに言われたいよ。
そう言いそうになったが、頑張って口を噤んだ。
俺の胃の中を覗いたみたいなタイミングでぼそぼそと話を始めた。ありがたいけど、内容が絶望的だと思う。
これじゃ、この前と同じだ。というか、こいつらはまた同じことを言っている。
質問ばかり俺に投げて、全てが受動的だ。
「袖、離して?」
双子は黙って袖を離さない。
「…別に走って逃げようとか考えてねえから、一旦離して?」
やっと引っ張られる感覚が消えて、俺は体を反転させた。
目の前には気まずさを最大限に滲ませる双子の顔。その頬を片手でギュッと押し潰した。右手は憂、左手は坂だ。
ぐえっとカエルのような呻きが聞こえるが気にしない。イケメンは顔が物理的に潰れてもイケメンだからすごい。
周りの人の影響を受けて付き合う人を選ぶほど、俺はヤワじゃありません。迷惑を被るかどうかでつるむかを決めるほど、腐った根性も持ってません。一緒にいたくないかについては、少し前まではちょっとばかしそう思ってましたが、千田のアドバイスをもらって1日2日寝たら割とどうでもよくなりました。お前らと放課後話すのはまあ楽しいです。生徒会室っていう場所が無ければ、話さないだろうけど。それでも、向き合ってやろうとか待ってやろうとか、らしくもないことを思うのはなんでだろうね。それはまあ、初めての経験なので俺もまだ分かりません。
そんなことを言ってやるつもりはないから、顔面を捏ね回す。早朝に仕込みをするパン屋もびっくりの手捌きで捏ね回す。
いつまでも重い彼女みたいなことを垂れていることへの腹いせ。あと、ついでに押し倒された分も。
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