苦くて儚い

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 甘さ控えめの生クリームをつけながら2枚目のパンケーキを食べていた悠一が、止まった。 「え、苦いっ!?ちょっ……これ、ここだけすっごく焦げてないか?な、なぁ……」  俺、顔を反らす。直也は「あぁすみません、よそ――シオン君――見をしていてついうっかり焦がしてしまいました」とニッコリ。もちろん、わざとだ。  悠一の分を焼く時にわざと火力を強めて、しっかり焦げるように焼いていたからな。焦げた匂いが部屋に充満しねぇよう、換気扇をつけるのも怠らず。  直也の、ささやかな反抗精神の表れなのか?「そ、そうか」と顔をひきつらせた悠一は、焦げた部分を生クリームで隠してなんとか食っている。  その、2人のやり取りが面白くて。直也がこんなにも打ち解けていて、嬉しくて、笑った。  嬉しいし楽しいし、パンケーキは美味いし。いい朝だなぁとカフェオレを飲もうとしたら、同じタイミングでカップを傾けていた直也と目が合った。 「あれ、直也ってブラック飲むのか?いつも俺より甘いの飲んでたよな?ミルクティーとかココアとかイチゴオレとか」 「コーヒーより紅茶派だよ?でもたまぁに、気分を変えたい時は飲むよ。あぁ、シオン君が僕のために淹れてくれたコーヒーは美味しいなぁ………………苦っ」  直也、本音がしっかり顔にも声に出てるぜ。  直也のカップの中は真っ黒、ブラックのコーヒーだった。周りの女子にからかわれるくらいの甘党なのに、ブラックを飲むのなんて初めて見たと思ったら。  絶対、悠一への対抗心。反抗心。あと、意地とプライド。ちょっと、自分もブラックが飲めるんだって俺に見せつけてるのか?
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