再会

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再会

カーテンの隙間から見える空は薄暗く霞み、部屋の空気は重く冷んやりとしている。 その状況を自身の憂鬱さがより重たくする。 眠りから覚めると、またついこの前までのの日々に戻るんじゃないかと眼を必死につむっていたが、どちらにも耐えかねて薄くまぶたを持ち上げ、寝室の置き時計に目をやる。 それは毎日正確に時を知らせ、時が今もなお進んでいることを思い知らせる。 まただ…また、眠れなかった。 もう何日目だろうか、まともな睡眠を取ることができなくなってから 重く疲労した身体を起こし寝室を出る。 洗面所の鏡の前に立ち歯を磨きながら、薄ぼんやりと見える自分の像に軽蔑の眼差しをおくる。 …なんで 何度も何度も繰り返し頭の中で流れる乱れた映像に、高揚感、喜び、幸福を少しは感じているが、 それをはるかに超えるほどに後悔、哀しみ、憎悪などの負の感情が湧き上がる。 何故こんなに憂鬱なのかは、今から少し前に遡る。 桜が綺麗に舞う季節になり 行きたかった就職先に内定が決まった事に 今そこへ向かっているという事に心が躍る。 心なしか空はいつもよりも綺麗に見える気がする。 そうして、今日から始まる社会人生活に嬉しさを隠せずに悠々とした足取りで会社へと向かっていた。 目の前に大きくそびえ立つビルを見上げ、深呼吸をする。 そして、勢いよく一歩を踏み出し建物の中に入った。 「おい!久しぶりだな、元気にしてたか?」 緊張のあまり周りを気にする余裕が無かったため反応が遅れてしまった。 話しかけてきたのはいつの間にか隣にいた人。 …この声 聞き覚えのある声に懐かしさと共に酸味がかった思いが込み上げ、たまらず隣を見ると本当に懐かしい顔があった。 驚きに思考を遮られているうちに返事をするタイミングを失った。 しかし、こちらが戸惑っているのにも触れず話を続けられる。 「って、...もしかして.....お前も就職先ここなの?」 …なんでここまで
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