第九話「ファッションウィーク」

40/46
540人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
 店の前に到着したタイミングで、若い学生風の団体がぞろぞろ出て来たため、店とそぐわないその客層に少し驚いた一砥は、彼らと一緒に羽織袴姿の剛蔵が現れたのを見てさらに驚いた。 「今日はありがとうございました」 「料理も美味しかったです。ごちそうさまでした」  見るからに真面目そうな八人の青年達は、剛蔵に口々に礼を言い頭を下げた。  剛蔵も満足げに頷き、「うむ。儂も楽しかった。ではまたな」と笑顔で彼らを見送った。  青年達が帰った後で、祖父はようやく傍らに立つ孫に気づいた。 「来たか。ちょうど良かったな」  並んで店に入り、一砥は「今の者達は?」と訊ねた。 「近くのT大キャンパスに通う学生達だ」  剛蔵はあっさり答えた。 「会社を良くするには優秀な人材が必要じゃからな。うちに関心のある者を知り合いの教授に紹介してもらい、時々こうして交流会を開いておるんじゃ。彼らとて、自分が働く会社のトップがどんな人間かくらい、知っておきたいじゃろうしな」 「そんな活動をなさっていたとは、知りませんでした」 「言っておらんからな」  剛蔵は笑い、店の個室に一砥を招き入れた。 「それで、折り入って話とは?」  座敷席で向かい合って座り、一砥は座布団から下りると深々と頭を下げた。 「申し訳ございません。高蝶泰聖を怒らせました」 「……ふむ。あいつの家はこの近くだったな。その帰りにここへ来たか」     
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!