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亜利紗は練習着に着替えながら、「いいよね、花衣は」とさらにボヤいた。
「もう雨宮会長にも交際を認めてもらったんでしょ? うちはパパもママもお祖父様に絶対服従だからさ。もし本気で反対されたら、駆け落ちでもしないと無理っぽいよ」
「奏助さんの実家もお金持ちだし、釣り合い取れてると思うのになぁ……」
「ただ裕福なだけじゃ駄目なの。最低江戸時代から続く家柄じゃないと、あのお祖父様は納得しないの。だから奏助さんは、高蝶の娘の私を敬遠してたんだよ。あの泰聖(たいせい)お祖父様の高慢ちきな性格は、知らない人間はいないくらい有名だからね」
「……お金持ちのお嬢様も、色々大変なんだね」
そこでその会話は終わった。
十月七日の金曜日。
花衣は先日の亜利紗との会話をふと思い出し、夕食の席で一砥にその話をした。
「今日招待状が届いていましたけど、雨宮会長の米寿のお祝いの会には、その高蝶泰聖さんもいらっしゃるんでしょう?」
高蝶家の当主・高蝶泰聖は、剛蔵が月光堂を立ち上げた当時からの株主である。会には月光堂グループ関係者が多く招待されており、彼も当然招かれているはずだった。
一砥は頷き、「まあ来るだろうな。喜寿の時も傘寿の時もいたからな」と興味なさそうに答えた。
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