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第九話「ファッションウィーク」
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一砥と花衣の交際は順調に続いた。
家政婦のバイトは継続しつつも、花衣は一砥が自宅で夕食を取る際は自分も一緒に食べ、そのまま泊まるようになった。
そして交際報告を受けた翌週にLuZで亜利紗と会ったが、奏助に買ってもらったというペアリングも見せてもらったり、幸せそうな惚気を聞かされても、心が波立つこともなかった。
しかし亜利紗の方は今の状況に不満があるようで、「パパにだけは奏助さんと付き合ってるって教えたんだけどね。お祖父様が反対するだろうから、彼との交際は秘密にしなさいって言われたの。お祖父様が反対したって、そんなの無視すればいいのに」と愚痴った。
「奏助さんが相手だと駄目なの?」
驚く花衣に亜利紗は、「あの偏屈爺さんなら、誰を連れて来たって文句言うわよ」と、堂々と祖父をこき下ろした。
「とにかくうちが元大名家ってことが自慢なの。アイデンティティがそれで出来てるのよ。先祖が残した遺産と人脈だけで、自分は何の努力もせずに生きてるくせに、いっつもすんごく偉そうなの。大嫌い」
その表情と口調から、本心からの「大嫌い」なのだと察して、花衣は黙り込んだ。
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