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「そうでしょうか。兄には、もっと大人になりなさいと言われてばかりです」
「それは、テトのお兄ちゃんがはやく大人になり過ぎただけ」
かたんとフォークを置いて、レルは頬杖をつきました。開いた窓から潮風が吹き込みます。
「兄は、いません」
「うん、知ってる。ハルのお家で会ったから、しばらくあっちでしょう」
「ハル姉さんのところに?」
「うん、まあ、いろいろ……」
レルはそっと口をつぐみました。ああこれは大人の話なんだなってわたしもそっと口をつぐみます。
「まぁ、いいの。あの、テトは海の底の国に行く方法、知ってるかな……」
「海の底? 大変なところに行きたいんですね」
わたしはパンの最後のひとかけらを口に放り込んで、立ち上がります。
わたし、そういうことなら得意です。
「ちょっと待っててくださいね。調べてきます。……あ、休んでてくださいね。ちょっと、疲れてるみたい。お茶はいつものところに。クッキーなら、今朝焼いたのがあります」
「うん、ありがと。よろしくね」
たったったー、と地下への階段駆け下りて、扉の前で腕まくりをします。
わたし、こういうことなら得意です。
扉を開いたら、次々にランプが光りました。ちょっとはしゃいでるみたい。だって、レルのために引かれるんだもの。ランプの妖精達のさざめくような笑い声を想像しました。
*
兄は正直体格に恵まれている方ではなくって、わたしと身長は同じくらいです。それでも兄としてなにかしないとと思ってるようで、ほんの少しこの家に帰ってきては、この家でわたしがひとりでも暮らしていけるように大工さんの真似事などされます。
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