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今日はよく晴れていたので、きっと何事もないだろうって思ってました。ただ、兄は出かけていて、庭のエニシダは赤くって、昨日の夜はぜんぜん星が見えなくって、やだなぁってことだけは思ってたんです。
洗濯物を朝一番に干して、朝ごはんを食べて、掃除をして、お昼ごはんを食べて、そしたら自由な時間がやってくるので、わたしは読みかけの本を読むか、絵を描くか、新しく花壇を作るかってことで迷ってました。
何事もなかったら、本を読んでたと思います。
とんとん、とノックの音が響いたのはお昼ごはんをなににしようか迷ってる時でした。わたしはきちんと兄の言いつけ通りに、どなたですか、と聞きました。
「セルジ・レルジです。こんにちは、お邪魔しても大丈夫?」
「レル!」
ドアを開いたら、懐かしいレルが立ってました。相変わらずの、グリーンの瞳と赤っぽい茶髪。小鳥のステッキ。ワンピースの色だけが宵闇のような黒に変わってました。
「久しぶりです、久しぶりです! レル、お元気?」
「んん、そこそこ。テトは、どう? 困ったこととか、ない?」
「ええ、大丈夫です。ひとりには慣れてますので。ああ、ご飯、お昼ごはん、食べていきますか?」
「……良ければ」
「大歓迎!」
レルがくしゃくしゃにわたしの頭を撫でました。くすぐったくなって、笑い声が思わずこぼれます。
ちょっと固くなったパンを刻んで、溶き卵と砂糖とミルクとグラタン皿に入れて、オーブンで焼きました。今日のは、自信作。やっぱり誰かがいるってことは、いいことです。
「おいしそ。上手になったね」
「そうですか?」
「うん。今年で何歳?」
「十一歳になります」
「お姉さんになったねぇ……」
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