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とはいえ、真夜中未明にヤツがこっそり自宅を抜け出しているというなら俺にも知り得ない事実があるかも知れない。さすがに二十四時間ヤツに張り付いて目を離さずにいられるわけもないからだ。
ただ、冰が俺に打ち明けたあの日以降、ヤツの態度に変わったところは見受けられなかった。酷く落ち込んでいるといった様子もないし、だとすればあれ以来ああいった目には遭っていないだろうと思われる。まあこれは俺の希望的観測に過ぎないのだが、転校初日のあの日以来ヤツの感情の変化には常々気を配ってきた中で、危機感を感じなかった己の嗅覚を信じることにする。
そんな思いが一転することになろうとは、さすがに予測できなかった。何と、冰がそろそろ帰ると言い出したからだ。
「はぁ? もう帰るってか? つか、まだ来てから十分も経ってねえじゃん」
紫月も驚き顔でそう言ったが、当の本人は何やら時計を気に掛けながらソワソワと落ち着かない様子でいる。
まさか、これから例の奴らと会う約束でもあるってのか――?
危険が迫っている――俺の本能がそう告げた。
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