十二、高校三年 春のこと

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「ねえねえっ。(かける)くんってもしかして、さくらちゃんのことが好きなんじゃないっ?」 「ええっ? まさか」 「だって、さくらちゃんたち、幼稚園からずっと一緒なんでしょ? (かける)くん、子供の頃から好きな人いるって言ってたしっ」 「ああ、あれは多分――」  さくらは、後ろへ振り向いた。  すると、(かける)もこちらへ振り向いていた。  窓の外で春一番が吹いて、桜吹雪が舞う。  二人は、その花びらとまったく同じ色に頬を染めてから、同時に前へ向き直った。 「違う、と思うけど。どうかな。ちょっと、分かんない……」 「さくらちゃん、顔真っ赤だよ? 大丈夫?」 「うん……」  さくらは、両腕に抱えた教科書で、火照った顔を(あお)いだ。  変わっていくものと、変わらないもの。そのどちらも、大切で、愛おしい。  そんなことを知ったのは、高校二年のこと。 (了)
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