1 はじめてのカレー

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 校舎の裏側に青い軽自動車が止めてあった。  随分と安っぽいモデルだ。  ボンネットやルーフは随分と汚れている。 「あれ誰のだろうね?」  僕は隣に立つ、クラスメイトの優木碧海に尋ねた。掃除をサボって廊下でおしゃべりしていた。 「ワタシのよ?親父のお下がり」 「え?免許とったの?」 「うん、もう18だよ?ドライブは楽しいよ?」  校舎裏ではサボり魔たちがボール遊びに興じていた。  ケータイが鳴った。親父からだった。 《あっ?健太か?お母さんが入院した》  母は前から具合が悪かった。  母の病気のことを碧海に話した。 「先生には説明しておくよ、帰りの準備しちゃいな?」 「ありがとう」  ノートや教科書を入れていると職員室から碧海が戻ってきた。 「病院まで送ってってやるよ」  車はマーチって言うらしい。  隣の車とスレスレに止まってある。  出るときはメチャメチャ怖かった。 「あー、もっと切って!」 「ビギナーなんだからあんまり叱らないで」  宇多田ヒカルの『トラベリング』を聞きながら海岸沿いを走る。コスモワールドの観覧車がクルクル回り、夕暮れの運河を屋形船がゆく。  病院は野毛山にある。  命に別状はなかった。  母が入院して数日が立つ、病名は脳血栓だ。  何度か見舞いに行ったが思ったよりも元気そうで安心した。しばらくは母のいない日が続く。  3月18日の夜、碧海が心配して来てくれた。  カレーを作ってくれた。 「少しベチャベチャしてるけど美味しい」 「それ、嫌味?」 「そーゆーわけじゃないよ」  焼肉やギョーザは美味かった。 「ここのところカップ麺とかコンビニ弁当だった からさ?助かったよ」 「お父さんは?」 「出張」 「レトルトばっかだとカラダ壊すよ?」    20日に母が退院した。しばらくしたら皆で温泉にでも行きたい。  
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