1章 繭玉と怪異

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今度も、ただの病ではなかった。 大抵の病というのは腕と首の筋肉の凝りからくるものと空穏は診ているが、この村の者ばかりはその限りでない。 どの者も皮膚が赤黒く変色し、筋肉も筋も凝り固まって、ほぐそうと指を入れても一向に歯が立たないのである。 無論それで諦める空穏ではないから根気よく治療を続け、やがては平癒に向かわせるのだが、常の治療の何倍も時を要した。 三年前、道中にて物言う雄牛・神獣の塩竈とひょんなことから出会い、救ってやった見返りのように「病の根源を視覚的に見える」能力を天から授けられた空穏であったが、その目をもってしても原因を見出せない。 天台宗を修める聖ながら根拠のない迷信や伝承をむやみに信じないたちの空穏だが、出張治療に参るたび、 『こりゃきっと物の怪の祟りに違いねぇって、村中の連中が噂しとるで』 とどの家の女房もしたり顔でぼやく通りに、あれは確かに怪異としか呼べぬものかもしれない。
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